「あきれたものだな、にも。いったいどうなっているんだ? モルゲンレーテの個人情報管理システムは。」
あの場を上手く治めきって、カガリと二人きりになった私は、のん気にもジュースのカップを手にしていた。
オーブに危害を加えるつもりはない。
私の潜入目的は貴女だ、と話した私に、カガリはとりあえず納得してくれていた。
〔 過去と違う未来 PHASE:19 〕
カガリの国外行動が、政治的行動につながっているのではないかと疑われていたと知って、カガリは驚いていた。
そりゃそうだ。ただの親子ゲンカだったんだから。
「だますことしかできなくて、ごめんね、カガリ。でももう、私はオーブを出るから。」
潜入の目的は果たした。
私がここにとどまる理由はない。
「次はどこへ行くんだ?」
「わからない。・・・だまっててくれて、ありがとう。」
男勝りな貴女は、私の親友を思い出させる。
そしてその内面は、私の幼なじみを思い出させる。
情の厚い、とっても不思議なお姫さま。
「はしゃべっちゃうんだろ? アークエンジェルがオーブにいること。」
立ち去ろうとした私の背中に、カガリのバカにしたような声がささる。
私は立ち止まり、カガリの方も見ずに答えた。
「・・・・・言わない。私の任務じゃないもの。」
ザフトの攻撃を受け、被弾した足つきはオーブにいた。
けど公式発表では、すでに足つきはオーブを離脱したことになっている。
本当は、報告しなければならないことだと、わかっている。
―――私は、ザフトの軍人だから。
けどこの国に来て、エリカさんというコーディネーターを否定するコーディネーターに出会った。
私の遺伝子を、私も否定していいのかもしれない。
そんな迷いが私の中に芽生えていた。
自分の存在自体を否定する、ものすごく危険な思想だと、わかってはいたけれど。
常に携帯している小型の通信機が鳴る。
てっきり帰還命令だと思っていたのに、その通信文を目にして胸が締めつけられる思いがした。
同期の仲間が、全員オーブへ潜入してくる。
足つきの動向を探るため。
オーブを離脱したことになっている足つき。
それはとても信じられる内容ではなかったが、正式にオーブという国が発表したため、ザフトもうかつに手を出せないでいた。
私はカガリと約束したとおり、何も見なかったことにして、ここを立ち去ろうと思っていたのに。
「それなのに、潜入を助けろだなんて・・・。」
潜入はあさっての明朝。
どんな顔をして会えというのか。
アスランに、ナスティに、ニコルに、ディアッカに。
「・・・・イザークも来ちゃうんでしょ・・・・?」
どんな顔をして会えばいいのか、ますますわからない。
「うわー、早いなお前、キーボード。」
カガリがコックピットの中にいる彼に話しかけた。
彼が、顔をあげる。
「よ! キラ。お前に会いたがってるヤツを連れてきた。幼なじみなんだって?」
カガリのとなりにいる私に目をむけて、キラが目を見開いた。
カガリのとなりで、私はガラにもなく緊張していた。
「。・・・・・・どうして、ここに・・・・・。」
「ごめんね、キラ。」
最後に会った日、私はキラとろくに目も合わせなかったから。
どうして私がザフトにいるのかを、君に話すよ。
「そう。遺伝子・・・。そんな遺伝子があるんだ、。」
私の話を聞いても、キラは驚いた様子もなかった。
私が持つそんな遺伝子より、キラのほうが辛い思いをしてきたんだろうと思った。
ナチュラルの中に、たった一人のコーディネーター。
戦うのは同胞。
かつての親友。
キラはずっと、たった一人で苦しんでいたのだ。
私は、仲間のみんなに支えられてきたけれど・・・・・・。
「キラ。さっきカガリから聞いたんだけど、お父さんとお母さん、来てるんだって?
どうして会わないの?」
キラの両親とは、私も面識がある。
キラのお母さまは、私たちの母とも仲が良かった。
優しいけど、怒るとものすごく怖い人だった。
「僕・・・、言っちゃいそうだから。」
消えてしまいそうに小さな声で、キラが言った。
「どうして僕を、コーディネーターにしたのって・・・・・。」
「キラ・・・・・。」
―――― どうして、私の遺伝子をいじったの ―――?
オーブへきてからそれは、私の頭の中に住みついてしまった言葉。
エリカさん。
キラ。
私。
それは、生まれる前から決められていた、私たちの鎖なの―――・・・?
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