「キラ・・・・・。」
「アスランともね、ちゃんと顔を合わせて話をしたよ。今度会うときは僕を討つって、そう言ってた。」
はかなげに、切なげに笑うキラ。
も・・・・・やっぱりそう言うのかな?」
そんな表情をするキラを、私は知らない。

月を去ったときに終わったのだ、きっと。
私たちの幼い日の時間が。

キラの問いに、私は何も答えることができなかった。










〔 過去と違う未来 PHASE:18 〕











キラに討たれて、“砂漠の虎”と呼ばれた優しい上司が落ちた。
キラの能力が、あきらかにストライクの性能を押し上げていた。
時を同じくしてプラントでは、オペレーションスピットブレイクが可決された。
アスランたちクルーゼ隊も、降下し、ジブラルタルに入ったと聞いた。
イザークとディアッカも、それと合流すべくジブラルタルへむかった。


私は二人と別れ、オーブにいた。
“G”の開発といい、元代表の一人娘カガリの動向といい、プラントではオーブに内乱あり、と判断しているらしい。
実際に潜入してみると、内乱というほどの大げさなことはなかった。

“G”の開発を連合から請け負っていたのはサハク家。
長年アスハ家とは正反対の裏ルートを取り持つ氏族だ。
“G”の開発をアスハ家に伝えなかったのも、サハク家が絡んでいたのならうなずける。

そしてカガリの国外行動の理由は、ただの親子ゲンカ。
あきれてものが言えないけれど、なんともカガリらしい理由だ。


私をザフトの軍人と知らないまま、エリカ・シモンズ女史は女性特有のおしゃべりであっけなく明かしてくれた。
エリカさんは、連合のデータを取り込み、オーブ専用のモビルスーツ“アストレイ”の製作を一手に任された技術者だった。
ここで私は、アストレイのテストパイロットとして潜入していた。
カガリが帰ってくることを考えると、少し怖い気もした。
彼女は、私をザフトの軍人と知っている。


「じゃあ、次はこっち。」
「・・・こんなの私にも使えません、エリカさん。」
「そう? じゃあナチュラルにも当然・・・・。」
「ムリですね。」

エリカさんは私をコーディネーターと知っている。
私もまた、彼女をコーディネーターと知っていた。
彼女はこの国で、隠れコーディネーターとして生きていた。


。私はね、生まれる前から選択権を持たなかったのよ。」
私をコーディネーターと知った日に、エリカさんは私に言った。
「遺伝子を調整され、両親と同じナチュラルとして生きることを許されなかったの。」

彼女は一世代目コーディネーターとして、ナチュラル社会で育ったと言った。
そして両親は、彼女自身でなく、彼女の中の高い能力しか愛していなかったと。
「私はね、生まれながらにズルをしている、コーディネーターなのよ。」

彼女の言葉は、存在は、私にとって衝撃以外の何者でもなかった。
今までコーディネーターであることを悔やむ者なんて、私の周りにいなかった。

生まれる前から決められていた運命に、逆らうことなんてできない。
殺人能力遺伝子が高められ、暗殺者として生まれた自分に、疑問を感じたことは正直なかった。
真実を知らされたときは、もちろん衝撃は受けた。
けど、そうと生まれたからには、そうとしか生かされない。
そう思って、軍人にまでなった。


私も、同じなんじゃないのか? 彼女と。
私だって、自分の未来さえ自分で決められなかった。
両親が、ザラ家が示す未来が、私の未来。

それで・・・・・・いいの?
エリカさんと話せば話すほどに、自分の存在が揺らいでいくのを感じた。



。降りてきてちょうだい。」
いつものようにアストレイの性能テストをしていると、エリカさんに呼ばれた。
私の顔を見るなり、顔を激高させて金髪の少女が突進してきた。

! お前よくもこんなところにまでっ!」
「カガリ!」
私の胸ぐらをつかみ上げたカガリを、エリカさんがさえぎる。
「はいはい、やめなさい。何? 二人は知り合い?」

「知り合いも何もコイツは――――・・・!」
「“明けの砂漠”で、行動を共にさせていただきました。その節はカガリ様のお身元を知らず、ご無礼をいたしました。」
一気に話しきり、頭を下げる私に、カガリは怒り心頭で言葉も出ない.
それが今は幸いした。




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