恋人がエマージェンシーを発しようが、MIAに認定されようが、助けに行くことはできない。
軍人であれば。
〔 過去と違う未来 PHASE:14 〕
私が置かれた状況は、まさにそれだったわけなのに、今の上司はあっさりと言った。
「・。・・・君に、バスターとデュエルのパイロット救出を命じる。」
「は?」
動揺を隠せないでいる私に、彼はなおも言った。
「僕が君で、イザーク・ジュールがアイシャなら、僕は迷わずそうするよ?」
ジブラルタルへむかうシャトルに乗りこむとき、ダコスタ副官がため息混じりに教えてくれた。
足つき追撃のすべてを請け負うことと引き換えに、私のこの任務を得てきたのだと。
パイロットの救出も足つきの情報収集の一環だ、とかいつもの調子でペラペラとジブラルタルをそそのかしてきたのだと。
申し訳なく思ってダコスタ副官に頭を下げると、アイシャがダコスタ副官の頭をペシっと叩いた。
「恋人を心配してナニガ悪いのかしら?」
恋人・・・・ですか・・・。
そしてまるでデートにでも送りだすかのように、ニッコリほほ笑んで手を振った。
「いってらっしゃい、。」
ジブラルタルに着くと、すでにディンと母艦が用意されていた。
二機の突入角から割り出した、降下予定地点のデータも入っている。
地中海。
降下されると予想されたのは、海だった。
PS装甲で護られた二機は、スペック上単体降下可能なはずだった。
今は、機体の性能を信じて、いくしかない。
「・。ディン、いきます!」
多少は期待していたエマージェンシーも出ていない。
暗く冷たい海は、何もかも飲みこんでしまいそうで恐ろしい。
その暗い海に、データとほとんどの狂いもなく、デュエルとバスターが着水していた。
フェイズシフトはダウンし、機体も大分破損している。
そのままディンで母艦に収容し、外部からハッチを解除した。
とたんにむわっとした熱い空気と、機体のこげる悪臭が流れ出る。
「イザーク! ディアッカ!」
整備班に抱きかかえられてコックピットから出てきた二人。
完全に意識はなく、身体はものすごい熱をもっていた。
それ以上に、私はイザークの顔に釘付けになる。
イザーク、その包帯は、なに・・・・?
顔全体を覆い隠すように巻かれた包帯。
わずかながら血がにじんでいる。
いったい、なにがあったというんだろう。
ジブラルタルに着くと、二人はすぐに医務室へ運ばれた。
高熱に苦しむ二人に、付き添うことしかできない自分がもどかしかった。
先に意識を取り戻したのは、ディアッカだった。
「・・・・・・・・・・・・・?」
うっすらと目をあけて、不思議そうに私の名を呼んだ彼に、私は飛びついて泣いた。
「よかっ・・・たッ・・・・。ディアッカ・・・・!」
嬉しさと同時に不安も感じた。
イザークがまだ、目を覚まさない。
治療のため、イザークの包帯が一度とられたときに、そのキズを見た。
先の地球降下の影響でか、傷口が一部開いてしまっていた。
顔を大きく斜めに走る傷跡。
何か鋭利な物で切りつけられた跡のようだった。
「足つきとの戦闘で、あのストライクにやられたんだ。」
意識を取り戻してからのディアッカの回復は早く、そのキズの理由も、彼から聞かされた。
ストライクに撃たれた衝撃で、コックピット内で小規模な爆発を起こし、ヘルメットのバイザーで顔を切ったのだと。
もしそのとき、コックピット内の空調システムまでやられていたら、イザークは間違いなく死んでいた。
イザークが、死んでいたかもしれない・・・・。
ストライクに撃たれて・・・?
―――キラに、撃たれて?
大好きな幼なじみのキラが、私の婚約者を殺すの?
私の大切な、イザークを殺すの?
キラが、殺すの?
イザークを。
アスランを。
私を・・・・・・?
事の重大さを、初めて知った夜だった。
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【あとがき】
落ちたところが海じゃなきゃ、これまたやっぱり死んでいたというウワサのイザーク。
九死に一生を二度も得ておりますな。彼は。
アカデミーに「運の強さ」があれば、こちらでもイザークがアスランに勝って一位だったのではないか、と。