は、星空を見上げるのが好きなんだな。」
その日は私のとなりに腰かけて、同じように宇宙を見上げるカガリがいた。










〔 過去と違う未来 PHASE:13 〕










「星にお兄さんを重ねて、話でもしているのか?」
「うん。そんな感じかな。」

兄なんて、いない。
でも星に誰かを重ねて話をしているのは本当。
ときにナスティだったり、イザークだったり、アスランだったり。
そして、キラだったりする。

「あんがいお兄さんも、と同じことしてるかもしれないな。」
カガリの言葉に、思わずイザークで想像してしまった。

私を星に見たてて、語りかけるイザーク。
かなり不気味だ。
しかも内容は、ゼッタイ小言だ。

自分で想像しておいて、あまりのおかしさに吹き出してしまう。
「何だよ。変なことだったか?」
「ちがうちがう。兄で想像したら笑えちゃったの。」
私の言葉にカガリは「そうか。」と笑った。
その表情に、なぜか懐かしさを感じた。

「カガリは、どうして明けの砂漠に来たの?」
さすがに私の言葉で、カガリの目が泳いだ。
本当の理由は素性がバレるから言えないんだろう。

「いや、その・・・・。世界を・・じゃなくて。戦いが・・・・っ」
しどろもどろの言い方に、私がくすくす笑っていると、顔を赤くしてカガリが怒鳴った。
「うるさいな! 理由なんて、なんだっていいじゃないか! 私はただ、ここを護りたいと、そう思ったんだから!」


ここを護りたい。
カガリのその言葉に、ウソはないんだろうな。
似た言葉を、数日前に私は聞いた。


『護りたい友達がいるんだ!』


幼なじみのキラも、そう言っていた。
「みんなどうして、護りたいだけなのに、戦わなくちゃいけないんだろうね。」
?」

思わず口をついて出てしまった言葉は、いつもキラに投げかけていた言葉だった。
どうしてカガリにその言葉が出てしまったのか・・・。
「今は、そんな時代だからな。相手が銃をむけてくるなら、戦わなくちゃ、護れない。」

カガリの言葉が、キラの言葉に聞こえるのは、どうしてだろう・・・?



久しぶりに着る赤の軍服は、とても重たく感じた。
実際ここ最近はレジスタンス用の軽微な服ばかりを着用していたのだから、ある程度は仕方ない。
けど、この重さは服のせいだけではない。
心に、身体に、重く、嫌なものがのしかかっている気がする。
ジブラルタルへむかうシャトルの中で私は、自分で自分を抱きしめながら震えていた。


バルトフェルド隊長からの緊急帰投命令を受けて、パナディーヤに戻った私。
もたらされた知らせは、最悪と言えるものだった。

。君の婚約者は、イザーク・ジュールだったね?」
緊急帰投というから、あわてて駆けつけてみれば、言いたいことはそれ?
あんぐりと口をあけている私に出されたのは、・ブレンド。
以前いたときと同じように、バニラフレーバーの甘い香りが、心を落ちつかせてくれる。

「隊長。意味のわからない質問です、それ。」
私の言葉に、てっきりいつものように笑ってくれると思ったのに。
バルトフェルド隊長の顔は、険しかった。

「彼が好きかね?」
「はあ?」
思いっきり不意打ちで、顔をしかめてしまった私に、隊長が言った。
「いや、失礼! だが、その顔でわかったよ。」
何が・・・と言いかけた私をさえぎって、隊長が事務的に言う。

「今知らせが入った。地球軍の第八艦隊と、クルーゼ隊が交戦した。」
「え?」
「クルーゼ隊は第八艦隊を壊滅させるも、アークエンジェルを取り逃がし、かの艦は地球へ降下している。」
「アーク・・・エンジェル、ですか?」
聞きなれない名前に、思わず聞き返してしまう。
「君はすでに見ているだろう? ヘリオポリスで造られた、アレだよ。」

それはラウが、“足つき”と呼んだ艦。
アークエンジェル。
それが、キラの護っている、あの艦の名前・・・。
「良くも悪くも、降下予定地点は北緯29度、東経18度。何を間違ったのか、パナディーヤのすぐそばだ。」

―――くる。
キラが、ここに。
私は・・・・どうすれば・・・・。


「・・・・それで、だ。実はその戦闘で、こちらのモビルスーツが二機、単体で降下している。」
「え?」
耐熱カプセルもなしに?
いくらモビルスーツでも、大気圏突入の摩擦熱で焼き尽くされてしまうんじゃ・・・?

「降下しているのは“バスター”と“デュエル”。クルーゼ隊がヘリオポリスで奪った、あの二機だよ。」
バスターと、・・・・デュエル?!
「パイロットは、わかっているな?」

―――ディアッカ、イザーク!!


温かいはずのコーヒーが、甘い香りのはずの・ブレンドが。
ただの黒い液体となって、私の中に流れこんだ。




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