コックピットに、敵機接近のアラートが鳴る。
モニターに表示されたデータは、それがストライクだと告げていた。

敵機。
乗っているのは、キラなのに?










〔 過去と違う未来 PHASE:10 〕










「キラ!」
高速で接近し、アスランはぎりぎりのところでストライクを避け、呼びかけた。
「やめろ! 僕たちは敵じゃない! そうだろう?!」
「・・・・・アスラン。」
スピーカーから漏れ聞こえたその声に、私も思わず声をあげた。

「キラ! どうしてキラがそこにいるの?! 戦うことが大キライなキラが、どうして?!」
「その声?! ?・・?!」
愕然とするキラの声が届いてきた。

キラは知らない。
私の遺伝子を。
キラと一緒にいた頃、私もそれを知らなかった。

「同じコーディネーターのお前が、なぜ地球軍にいる?!」
「僕は地球軍じゃない!」
弾かれたように答えたキラの言葉。
「ヘリオポリスで・・僕はただの学生だった。君たちこそ、どうしてザフトになんか!」

ヘリオポリス。
学生。
ありえないところで、私の記憶とキラがつながる。
連合のモビルスーツOS開発を、ただの学生、しかもコーディネーターにさせていたドクター・カトウ。
巻きこまれないで済むコーディネーターを巻きこんで、それを知らせずにいた。
それが許せなくて、私が殺したあの男。

―――キラだ!
あの男が巻きこんでいたのは、キラだったんだ!

キラの能力なら、あのOSを書き換えるのも簡単だろう。
どうしてキラがあのストライクに乗ることになったのかは知らない。
けど、地球軍にしてみたら、喉から手が出るほど欲しかった人材のはずだ。


レバーをにぎる手が、ギリッと音をたてた。
「・・・・キラ? もういいよ。帰ってきて。私たちのところに!」
「一緒にこい、キラ! お前がナチュラルの艦にいる理由がどこにある?!」
しばらくの沈黙の後、キラの絞りだすように苦しそうな声が聞こえてきた。
「でも・・・あそこには仲間が。護りたい友達がいるんだ!」

ナチュラルの、護りたい友達?
ねえ、キラ。
私たちは・・・・?

お互いに何も言えず、何も攻撃できない。
そこへ、ひとすじのビームがアスランとキラを引き裂いた。
「何をモタモタやっている?! アスラン!!」
ガモフから出撃してきたイザークが、デュエルに乗って飛びこんできた。

「イザーク! まって!」
イザークの参戦によって、一気に戦闘へ変わる。
状況を説明しようにも、この現状ではムリだった。
やがて、防戦一方だったストライクも、ビームライフルをデュエルへ向けた。
訓練もしていないキラは、闇雲にライフルを撃つだけだった。
当然イザークのデュエルに当たるはずもなく、キラはあっという間に間合いを詰められた。

「おっ、ラッキー。こっちにきたぜ。」
今度はスピーカーからディアッカの声がした。
ディアッカはバスターに乗り、ニコルのブリッツとナスティのジンと共に、足つきを攻撃していた。
足つきの武装の前にとりつけないでいたところ、私たち四機が飛びこんでいく形になった。

「ディアッカ! イザーク!」
二機からの攻撃に、じりじりと追い詰められていくキラのストライク。
私はただ、仲間の名を呼ぶことしかできなかった。

そのとき、ひとすじの光の渦が私たちの横を駆け抜けた。
足つきから放たれた艦首砲だった。
同時に、ガモフからレーザー通信が入る。
それは、ヴェサリウス被弾、戦線離脱。という、とんでもない内容だった。

「俺たちにも撤退しろって?」
ディアッカが憎々しげに言った。
いったい、ヴェサリウスで何が起こったというのだろう。

「ちいっ! ここまで追い詰めておきながらぁっ!」
イザークはなおも、ストライクへむかってデュエルを駆る。
「こうなったら、あいつだけでもぉっ!」
デュエルのビームサーベルが、唸りをあげてキラに迫る。

「イザーク! 撤退命令だぞ!」
「うるさい! この腰抜け!!」
アスランが止めても、悪態をつくだけのイザーク。
ディアッカもバスターのライフルを下ろす様子はない。

と、ストライクの装甲が、赤白青のトリコロールからメタリックグレーへ変色した。
フェイズシフトがダウンしたのだ。

「もらったあぁぁぁぁぁっ!」
デュエルのビームサーベルが、ストライクのコックピットに迫る。
「くぅっ・・・・。」
ジンの性能では、どうやっても間に合わない。

――――キラ、逃げて!

ところが、デュエルのサーベルより早く、動いた者がいた。
アスランだった。
アスランのイージスは、モビルアーマーに変形して、キラのストライクを捕獲した。




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【あとがき】
 戦闘中のイザークは叫んでばかり。
 声が枯れるぞ?
 「この腰抜け!」って、イザークになら言われてみたい。