ヘリオポリスのシェルターが、一斉に星空へ放出された。
さっきまで立っていた大地が、モニターの中で音もなく崩壊していく。
私たちはただそれを、呆然と見ていることしかできなかった。


崩壊するコロニー。
回収不可能になった、ラスティの身体。

『じゃあねぇ〜ちゃん。またあとで!』
アスランとドッグへ入っていったラスティの姿が、私が見た彼の、最期の姿になった。










〔 過去と違う未来 PHASE:09 〕










アスランの機体がヴェサリウスへ帰投する。
先に出撃したはずのジン二機は、いつまでたっても戻らなかった。

「オロールに・・・・ミゲルまで・・・・?!」
「くっそおおぉぉぉぉぉおおおっっ!!」
ロッカーに殴りかかるイザークを、止める人間はいなかった。


。」
突然ヴェサリウスから入った通信に立ち上がり、敬礼する。
中立のコロニーを破壊してもなお、ラウの口調は変わらなかった。

「君の任務は完了した。しかし我々はこのままあの艦を追う。しばらく付き合ってもらえるかね?」
「はい。もちろんです。」
ラウの言葉は、なんだかひどく場違いに思えた。
今の私はクルーゼ隊に身を寄せる立場だ。
異を唱えることなど、ありえないのに。

「それから。」
銀の仮面に手をやりながら、ラウが続けた。
「懲罰を科すつもりはないが、先ほどの出撃の件でアスランを呼び出したところ、君にも同席して欲しいとのことでね。」
ラウの指示を受けて、私は再びヴェサリウスへ移った。
二隻の艦は、ユーラシアの軍事衛星・アルテミスへむけて発進していく。



、出頭いたしました。」
「入りたまえ。」
隊長室に入ると、すでに中ではアスランが控えていた。

「さあアスラン。続きを聞かせてもらえるかね?」
ラウの言葉にアスランはうつむき、そして私を見た。
「あの奪取し損ねた最後の機体。・・・・・・あれに乗っているのはキラ・ヤマト。
 月の幼年学校で私たちの友人であった・・・・コーディネーターです。」


――――― え? ―――――


なんて言った?
なんて言ったの? アスラン。
・・・・・キラ・ヤマト?

―――――キラ?


思いもよらない名前を耳にして、私はただ愕然とアスランを見ていた。
その後もラウの問答は続いたけど、私の耳にそれらは届かなかった。


「だが、聞き入れないときはどうする?」
耳にとびこんできたのはラウの言葉。
私はハッとして顔をあげた。
「そのときは・・・・・。私が撃ちます。」


「アスラン? アスランってば!」
隊長室を出て、私の方を見もしないで歩くアスラン。
その腕を後ろからつかむ。
「どういうコトなの? なんでキラが?!」
「わからないさ、そんなの!」
アスランは少し、イラついているようだった。

「ヘリオポリス崩壊のときの戦闘で、俺はあいつと通信した。」
まさか、と思っていた思いは、アスランの言葉にかき消された。
通信したなら、間違えるはずない。
4歳の頃から、ずっと一緒に育ってきた、キラの声を。

どうして?
コーディネーターのキラが、どうして連合のモビルスーツに乗っているの?

「奪取に失敗したX−105“ストライク”。キラはあれに乗っていた。」
どう・・・し・・・て?
「崩壊の混乱でそれ以上は聞けなかった。けど・・・俺があいつを説得して連れてくる!」

それであの、ラウのセリフ?
聞き入れないときは―――・・・アスランがキラを撃つの?

「キラがストライクに乗ってるなんて、なにかの間違いだ。」
アスランの言葉は、そのまま、私自身の言葉でもあった。



ヴェサリウスが先行して“足つき”の頭を押さえて、後ろからガモフが抑えこむ。
パイロット不足となったヴェサリウスで、私は臨時にパイロットとして搭乗することとなった。
敵艦捕捉の知らせを受けて、私たちはコックピットで待機する。

奪取した機体、イージスに乗りこんでいくアスラン。
私は、そのうしろ姿に声をかけた。
「アスラン。キラは、人を傷つけるなんてできないよ。」
私の声に、アスランがふりむく。
「きっとなにかの間違いで、あれに乗ってる。キラを、助けてあげよう?」

まるでアスランのほうが救われたように、はかなく笑ってコックピットに飛びこんでいく。
私も続いてジンに乗りこんだ。

この漆黒の闇のむこうに、キラがいる。
大切な私たちの幼なじみ。
争いが大キライで、他人を傷つけることをしないキラ。
そのキラが、モビルスーツに乗っている。


。ジン、いきます!」




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【あとがき】
 イザークーぅ? イザークはドコですかー?な展開。
 しばらくヒロインとアスランでキラキラ言ってそうです。