「任務についての詳しい打ち合わせは明日にしよう。」
いまだに報告書から顔をあげない私に、ラウが優しく声をかけた。
「も地球から宇宙へあがったばかりで、疲れているだろう?」
「はい。ありがとうございます。」
敬礼をしようと立ちあがりかけた私を制して、ラウが続けた。
「には、プレゼントを用意しておいたよ。もう来る頃だ。」
・・・・・・・プレゼントって、歩くんですか??
〔 過去と違う未来 PHASE:03 〕
しばらくして部屋に入ってきた、ラウいわくプレゼント。
私には、どうやって見てもイザーク・ジュールさんにしか見えません。
「隊長! どういうことですか、これは。なんでがここに!」
イザークも、どうやら何も聞かされていなかったらしい。
おそらくは隊長の付き人に指名されて、意気揚々と来たに違いない。
「私を責めないでくれ。に会うならぜひイザークも、と。エザリア議員からお願いされてしまってね。」
なるほどねー。
と、納得させられてしまうあたり、さすがエザリア様。
でも拒否しないラウもラウだ。
ラウはすぐに、自分は国防委員会にも用事があるから、と、部屋を出て行ってしまった。
残されたのはイザークと私。
忘れちゃいけない、婚約者同士。
「元気そうだな。」
ラウがいなくなって、緊張感のなくなった部屋。
ドカッとソファに腰かけて、イザークが言った。
「イザークも、元気そうだね。」
入隊してからは、これといってまともに連絡すらとれないでいた。
特に私は、任務についたら官舎にいるときしか私的な通信はできない。
それでいて任務中、官舎にいることなんて、ほとんどない。
生身で会うのは、アカデミーの卒業式以来。
「地球の任務は、どうやら終わったようだな。」
「うん。次はクルーゼ隊だって。」
私の言葉に、イザークが目を丸くした。
「何?! なら、ヘリオポリスへ行くのはか?!」
私は黙ってうなずいた。
私が関わることは知らなくても、潜入任務があるのはさすがに聞いていたらしい。
「重要だぞ、この任務は。」
わかっているのか?と、イザークの目が聞いてる。
私はあえて、イザークに答えを言わなかった。
「ねぇ、イザークはもう、出撃したでしょ?」
いきなりの話題転換にも、イザークは律儀に答えてくれる。
「あぁ。小さな戦闘になら、もう何度も出た。」
「なら、敵機を撃墜したよね?」
「ああ。」
何を言ってるんだ、とか思われてそうだな。
戦争なんだから、当たり前だと。
「お前は?・・はどうなんだ?」
イザークの問いに、私はちょっとためらってから答えた。
「―――殺したよ。任務のために、3人。」
モビルスーツに乗って、敵を撃つイザーク。
生身で、ナイフで、敵を殺す私。
意味は同じでも、違う行為のように思えるのはどうしてだろう。
だから私は、こっちを選んだワケだけど。
「言ったとおり、責任もつよ。忘れない、彼らの命を。」
私の言葉でイザークは顔を引き締めた。
「・・・・・だから、今回も大丈夫だと。言いたいんだな?」
私は笑顔でうなずいた。
「みんなは元気?」
話が一段落したところで、私はまったく違う話題をもち出した。
「あいもかわらず、だ。ミゲルが加わった分、よけい騒がしくなった。」
アカデミー卒業のときに、二回だけ会ったミゲル先輩。
すっごく気さくで、くだけたヒト。
ナスティの言ったとおり、やっぱりラスティと似たもの同士だったんだ。
「そういえば隊長は今日、教え子に会うと言っていた。・・・どういうことだ?」
―――教え子。
そんな風に思ってるようには見えなかったけどな。
要は上司の命令で、訓練相手をしてくれていただけで。
まあ、あんまり変わりはないけど。
「私の遺伝子のこと、話たよね。アカデミーに入る前、すでに訓練受けてたって。」
イザークは、しまったというように顔をそむけた。
イザークが禁句のようにその話題をしまいこんでいることを、私は気づいていた。
そんなイザークが、やっぱり好きだよ。
だから私は、笑いながらこうやって話せる。
「訓練の相手をしてくれてたのが、当時赤服だったラウ。」
「隊長が?!」
「そう。ナイフ戦では勝ったことあるよ。」
私の言葉に、イザークが大きなため息をついた。
「クルーゼ隊の中でも、隊長に勝てるヤツなんかいないんだぞ。」
そして恨めしげに私を見た。
「それを負かせたに、アカデミーの学生ごときが勝てるか。」
ナイフ戦の卒業試験は、生き残りバトルだった。
にもかかわらず、私に挑んできたイザーク。
「・・・・・もしかして、後悔してる?」
「するか!弱い奴を倒してもつまらん。」
あのときと同じセリフを言ったイザークに、なぜだか笑みがこぼれた。
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【あとがき】
あえて甘くしたかったのに、甘くならなかった・・・・。
公私混同が許されるエザリア様。さすが!!