モカ60%、ハワイコナ40%のブレンドコーヒー。
私が好きと言ったものが、目の前で香り立っている。
ブレンドと名づけられたコーヒーが飲めるのは、今日が最後。
〔 過去と違う未来 PHASE:02 〕
「最後まで着てくれなかったのね、ドレス。」
アイシャが、がっかり、と目を伏せた。
女の子を飾り立てるのが大好きなアイシャ。
何度も何度も何度も何度も・・・・誘いを受けたけど、私は断り続けた。
軍人は軍服を着ていてこそ、軍人。
そう言った理由はこじつけだったけど、仕事柄、私はあまり軍服を着られない。
せめて官舎にいるときくらい、この色の軍服を着ていたいのだ。
アカデミー時代を共に過ごした、大切な仲間を思い出す、この色の軍服を。
「本国はよっぽど君を買ってるんだねぇ?もう次の潜入任務だって?」
国防委員長は、私の能力を知るパトリックおじさまだ。
力を認められているのは、痛いほどわかる。
隊長の言葉を受けて、マーチン・ダコスタ副長が、本国からの指示を読みあげる。
「特殊部隊所属・は、本日をもってバルトフェルド隊を離隊。本国へ帰還のこと。
帰還後速やかに軍本部へ出頭。転属先任務の情報を伝える。・・・とのことです。」
「やれやれ。急がせすぎじゃないの?コレは。」
自分のことのように言った隊長に、私は思わず笑顔をこぼした。
「君を失うのは惜しいよ。できればこのまま、とどまってもらいたかったんだがね。」
そう言って差し出された隊長の右手に、私も右手を差し出した。
「ありがとうございます。私こそ、こちらに配属されて大変勉強になりました。」
ダコスタ副長とも握手を交わし、アイシャには抱きしめてもらった。
敬礼をして立ち去ろうとした私に、隊長が最後の言葉をかけた。
「。命令は必ずしも正論じゃないんだよ。」
このときの私はまだ子供で、その言葉の意味も深く受けとめられなかった。
「特殊部隊所属・。指示により出頭いたしました。」
ジブラルタルから宇宙へあがり、休む間もなく出頭した軍本部。
私を待っていた次の任務の隊長は、あのラウ・ル・クルーゼだった。
「お久しぶりです、ラウ。・・・・いえ、クルーゼ隊長。」
軍に入ってから、ラウと会うのは初めてだった。
私に訓練指導をしていた頃は赤の軍服を着ていたのに、今日再会したラウは、白い軍服を着ていた。
「呼び方は何でも構わんよ。君とは知った仲だ。」
相変わらず銀色のマスクをつけ、よそよそしい雰囲気を漂わせている。
アカデミー入学前、まだ訓練を始めたばかりの頃。
私は本気でこの男を殺してやりたいと、思ったことがある。
今思うと、殺したかったのはラウだったのか。
自分の未来だったのか。
「今回の任務に、わざわざ私を指名されたそうですね。よろしいんですか?」
「おいおい。私は君に負けたことがあるのだよ?君のウデは信用している。」
今回の潜入任務には、守秘義務が課せられていた。
国家の問題に発展することもありえる、ということだ。
「それに、君でなくてはダメなのだよ。」
言われてラウから渡された任務内容を見て、私は思わず絶句した。
私たちザフトが戦っているのは、地球連合軍。
だからといって、地球のすべてが敵なのではなかった。
地球の国家の中にも中立を掲げる国はあり、戦いを望まない国もある。
その中でもオーブという国は、ナチュラルとコーディネーターが共存する数少ない中立国だ。
プラントとも友好的な外交が行われている。
ところがラウから渡された書面の一番上には、こう書かれていた。
『オーブ所有コロニー、ヘリオポリスにおいて地球軍最新鋭モビルスーツ開発がおこなわれている』と。
「ラウ、これは・・・・っ」
「だから守秘義務が課せられているのだ、。これが真実であれば、オーブの理念そのものがくつがえる。」
オーブの理念。
『 他国を侵略しない。
他国の侵略を許さない。
他国の争いに介入しない。 』
「真実である確証は、まだないのだよ。・・・君にならできると思うのだが?」
現在、モビルアーマーしか持たない地球軍。
戦士と兵器の能力差は歴然でも、圧倒的な物量の前にはさすがのザフトも手をこまねいていた。
性能が上のモビルスーツが投入され、量産されれば、戦局がかわる。
「やります。」
このときの私に、それ以外、どんな言葉が言えただろう。
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【あとがき】
アンディ夢に続いて、クルーゼ夢。
イザーク!イザークはドコですか?!