「すぐ戻るって言ったのにー。アスラン遅いー。」
部屋の中ではすっかり支度の整ったが、頬を膨らませて俺を待っていた。
その姿とのギャップに、俺はくすりと笑っていた。

「すまない。悪かった。」










〔 あたたかな光、キミにあふれて。 〕
      − 第六章 −










ナスティとカガリもちゃんと来てくれていたことを伝えると、は嬉しそうに瞳を輝かせた。
地球にいて、かつ忙しい2人とは、なかなか通信もできない。
今日の日の出席も、実は微妙だったのだ。

「きっとナスティったら、別人のように綺麗な姿なんだろうなぁ。」
楽しそうにくすくすと笑うに、俺もつられて笑う。
「今日は以上に綺麗な人なんていないさ。」

自分でも不思議なほどにすんなりと、告げられなかった言葉が出てきた。
改めて思い直すとあまりにもキザすぎた言葉で、顔が熱をもってきた。
「アスランには、今日初めて誉められたかも。」
も照れくさそうに頬を少し染めながら「ありがとう」と答えた。


俺は何か別の話題を探そうと、視線を泳がせた。
そこでフッと気づく。
、ベールってかぶらないのか?」

花嫁といえば、ウェディングドレスにベール。
俺でもすぐに思い浮かぶその姿。
けれどは、ベールを頭に着けてはいるものの、顔にかぶせていなかった。

「ベールは、アスラン様がかぶせてさしあげてください。」
それまで無言で待機していた介添えの女性が、突然俺に言った。

「は?」
何で俺なんだ?と、疑問のまなざしでを見ると、も初耳だったらしく、きょとんとしていた。

「本来は、お母さまのお役目なんですけどね。
 この世に産んでくれたお母さまが、ベールをかぶせて、彼女の独身時代の幕を閉じてあげるんです。
 今までの彼女はここで終わりを迎えて、式の途中、
 新郎様にベールを上げてもらうことでまた、彼女の新しい人生が始まります。
 ベールと誓いのキスには、そういう意味があるんですよ。」

ニコニコと告げる彼女は、本当に俺たちのことは何も知らない。
知らない。
それなのに―――・・・・。


の過去。
俺の身代わりだった、の役割。
殺人者として、調整された遺伝子。

母たちの死。
ラスティの死。
ニコルの死。
父たちの死。

戦争の中に失ってしまった、たくさんのもの。
それを終わりにする。

の過去に終幕を、俺が。
の新しい人生の幕開けを、イザークが。


の顔を見ると、瞳が揺らいでいた。
おそらく、俺と同じことを思っているのだろう。

俺はフッと笑って、のベールに手をかけた。
と、目が合った。


の過去に幕を下ろす。
それをするのに、俺ほどふさわしい人間はいないはずだ。

俺たちのしてきた戦争の爪痕は消えない。
俺たちの中に、大切な人を失った悲しみは、今も昨日のことのように焼きついている。

けれど、俺たちはやり直せる。
俺たちは、償っていける。世界に。

―――過去に、幕を。
の哀しい過去に、俺が幕を引く。

そうだ。
俺の・・・・、想いにも・・・・・・。



ベールをすっかり下ろしてしまうと、の目から涙がこぼれていた。
「ばかだな。泣くな。」
そういう俺の声も震えていた。
の手が俺をつかまえて、小さく嗚咽が漏れた。

「――――幸せになれよ。」

の背を、幼子にするように撫でながら言った俺に、がコクンとうなずいた。





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【あとがき】
 過去のアスラン。未来のイザーク。
 というようなイメージです。