イザークとの挙式は、マティウス市にあるジュール邸でおこなわれる。
イザークの母君、エザリア様は先の大戦の戦後裁判により、家を出ることができない。
それなら、せっかくジュール邸のイングリッシュガーデンがあるのだし、
そこで挙げられないかと、が言い出したらしい。
今日は自慢のイングリッシュガーデンに、教会が造られ、ヴァージンロードがまっすぐに伸びている。
〔 あたたかな光、キミにあふれて。 〕
− 第三章 −
庭中をウェディングスタッフが華麗に行き交い、ゲスト同士による談笑が見られた。
今日のマティウス市は晴れ。
気候もほどよく調整され、屋外のウェディングにはもってこいの日になっている。
ガーデンには手入れの行き届いたバラが、所狭しと咲き乱れている。
今日の日にあわせて、丁寧に準備されたのだとわかる。
幸せになるだろう。
は、きっと。
「おーい! アスラーン!」
一人たそがれていると、遠くの方から声がかかる。
彼らを見つけたとき、思わず笑みがこぼれた。
「ドレスを着ていると本当に別人だな、ナスティ?」
俺が声をかけると、ナスティはにっこり笑って優雅に会釈をした。
「減らず口たたいてるとへし折るぜー? アスラン。」
口から出てきた言葉は、ナスティそのものだった。
「グゥーレイト! アスラン、なかなか似合ってるぜ?」
ディアッカはアークエンジェルで知り合った、ミリアリアをエスコートしていた。
「にはまだ会えないのかっ? 何でキラだけ会えたんだ? ズルイぞっ!」
カガリはキラに文句を言いながら迫り、キラはそんなカガリをなだめている。
カガリは姉弟だと言うが、俺には兄妹に見える。
あのキラをもってしても、だ。
「サンドイッチはの口にあいまして? アスラン。」
「はい。全部食べていました。ラクスにありがとうと伝えてほしいと言って、喜んでいましたよ。」
「まあ! 嬉しいですわ。」
婚約は解消したが、俺とラクスの間に気まずさはない。
「おい、アスラン!」
さっきまでキラに食ってかかっていたカガリが、今度は俺に向かってきた。
「何で私はに会えないんだ?!」
今や彼女はオーブの代表。
けど、こんなことでカリカリする彼女は、まだまだ子供だ。
「花嫁は俺がエスコートしてくるまで、見せたらいけないと言われたんだ。まだ準備も終わっていないし・・・。」
「なら! どーしてキラは会ってるんだ?! おかしいぞっ!」
カガリの言葉に、全員がそれもそうだとキラを見た。
「そういえばキラ。お前どうしてあそこにがいるって、わかったんだ?」
俺の質問に、全員が興味深々でキラの答えを待った。
当のキラは少し考えながら言った。
「えー?・・・・なんとなく?」
あまりにもキラらしいと言ったらキラらしい答えに、俺たちは見事に全員でため息をついた。
またもやカガリがキラに文句を言い出し、まわりの人間もワイワイと騒ぎ出した。
昔は銃を向け合ったことのある俺たちも、今はこうして一緒にいられる。
そのことに改めて、平和の大切さを知る。
咲き誇るバラの香りは甘く、笑い声は絶えない。
辛い思いばかりだと思っていた戦争も、こうして平和になると、得たものの大きさにも気づかされる。
俺にはこの輪の中に、あと2人、いるように思えてならなかった。
ラスティ。
ニコル。
ひとり、空を見上げて話しかける。
「キミたちも、ここに来てくれている気がするよ。」
俺の記憶の中で、2人が笑った。
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【あとがき】
失ったもの。得たもの。
秤にかけることはできないけれど、君たちのことは今も想っているよ。