出た途端に激しい戦闘が仕掛けられた。
数にものをいわせた地球連合軍から、相当数のモビルスーツが攻撃を繰り出してくる。
艦首砲を撃たれて主軸が乱れたミネルバは、今が決め時とばかりに集中砲火を受けた。









〔 オレンジへのあこがれ −運命編・ACT.15− 〕










「レイは右舷、ルナマリアは左舷につけ。よーく狙って撃ち落せよぉっ!」
「了解しました。」
「こんなに?!」
レイは落ち着き払って答え、ルナマリアはあまりの敵の数に驚き、答えを返すどころではなかった。

ハイネが手元で敵の配置を確認すると、新しく三機の機影が確認される。
その機体は一直線にミネルバへ向かってきた。

「カオス、ガイア、アビスの三機を確認。」
ハイネがムラサメと交戦しながら読みあげて注意を促す。
が、もレイもルナマリアもむかってくる敵を撃ち落すことに精一杯だった。

アスランとシンが連合の三機と交戦を始める。
その間にも紋章のついたストライクから、カガリの声が聞こえていた。
それはまるで嫌なノイズのようにには聞こえた。
いくらなんでも、こんなことで戦争が止まるわけがないとにだってわかっていた。

やがてその声が聞こえなくなると、今度はフリーダムが攻撃を開始した。
その力を振るう姿に、戦争の義は感じられなかった。


「だれかれ構わずかよ!このヤロウっ!」
ガイアと交戦していたハイネが、たまらず声を荒げた。
戦っているさなかに、キラのフリーダムが乱入してきたのだ。
「ハイネ!・・・フリーダム!」
が状況を見て声をあげた。

「行って・・いいわよ!!」
「ルナマリア?!」
「こんなヤツら、あたしたちだけでへーき!ねっ、レイ?」
「あぁ。さすがにハイネでもあれを同時に相手することは無謀だ。、行ってやれ。」
二人のあったかい言葉をもらって、はハイネの元へ駆けつけた。
その間にもは、フリーダムとの回線を繋げるべく通信コードを打ち続けた。


「キラ!」
・・・?」
何度か試みたところ、目標相手との通信が繋がった。
がキラに言いたいことは山ほどあったが、今はこの状況を何とかしたかった。

「手を出さないで!代表の言葉で止まらないことはわかったでしょう?もう引いて!」
「そうだけど、でも僕たちは・・・。」
「その機体は混乱を招くだけ。いらない犠牲が増えるだけ!」

うかがうように相手の懐に飛びこんでは、引く。
もキラも本気で相手を倒そうとはしていなかった。
はどうしても、言葉で説得したかった。
あの慣れた機体に、刃を向けたくなかった。

「フリーダムでそれ以上、人を殺さないで!」
「殺さない。だって・・。わかってる。この機体にこめられたの想い。」
「わかってない!メインカメラを壊されて武装を解かれて、それで人が死なないって言えるの?」

前の対戦のときにもわかった。
キラは敵の急所を撃ってないと。
それでも機体に損傷が与えられたことで、帰投できずに堕ちる命はある。
直撃していないからといって、力をふるっている事実に変わりはない。
武力で制しようとしていることに、命を奪う奪わないは問題にはならない。

「ラクスだって・・そこにいるんでしょう?なんでこんなやり方・・・!」
目指す未来はきっと同じと、手を取り合った友達。
アルのお墓の前で、そう約束した。
でもこれでは、現状を壊すだけで何の解決にもならない。
ラクスだって、きっとわかっているはずなのに。

「ごめん。」
「・・・謝るってことはことは、わかってるのね?こんなやり方、何にもならないって・・・。ならどうして!」
「ごめん。・・・どうしてもカガリに、わかってもらわないとならないんだ。」
「どういう・・・?!」

会話は中断された。
ハイネ機を振り切ってガイアがフリーダムに攻撃を仕掛けてきたのだ。

なりふり構わずフリーダムに体当たりで攻撃を仕掛けたガイアは、その反動をそのままにの機体にも体当たりしてくる。
予想もしていない攻撃に、の機体もバランスを崩した。
「ガイア・・・!」

のメインカメラの映像は、フリーダムとガイアを映している。
はなんと表現していいかわからない感情に包まれていた。
戦闘のときに、他のことに心を捕らわれていてはいけないとわかっていても、考えずにはいられなかった。

フリーダム。
ガイア。

それはがメインでテストパイロットを務めた二機の機体。
その二機をともに奪われ、どちらもが所属する軍のものではなくなっている。
その二機を同時に目の前にしては、何かを思わずにはいられなかった。



***



「陸上の速攻力を最優先でいいと思います。」
最初にガイアに搭乗したがコックピットから降りて一番に言った言葉に、開発者は安心した顔を見せた。
ガイアの方向性が正式に定まって、ようやく細部の開発に入れるからだ。
にも二足歩行から四足歩行へ変形するモビルスーツは初めてだったが、違和感はなかった。

宇宙では最強を誇るモビルスーツも、地球上では機動力が落ちる。
それを補足するための四足歩行への変形は、陸上では有効に働くだろう。
そのために水陸両用と飛行能力をそぎ落としたところは、充分に補えるはずだ。

「ただ、武装がミサイルでは弱いと思います。。従来のバクゥとの差別化を、武装部分でしてみたらどうでしょう。」
の指摘をすらすらと書き留めて、開発者は整備者との打ち合わせに向かった。
は一息ついてそれを見送った。

「いやいやいや!コイツには空を制してもらいたいわけよ。だからさー・・・。」
ハイネの熱がこもった声が聞こえてきて、は上を見上げた。
コックピットに腰掛けたままで、ハイネが身振り手振り開発者にアピールしている。
もちろん操縦者目線の意見を。
はそれを懐かしいものを見たというように笑って見あげていた。


新規に開発されている三機の機体。
どれもフリーダムとジャスティスの流れをくむタイプだ。
とは言っても核エンジンは搭載できないのでパワーの面では劣る。

三機の開発目的も地球上での活動を念頭に置いたもので、先の二機とは重点を置く部分も異なる。
とハイネはまず、三機の役割を決めた。
カオスは制空権を優位にとるため、空中飛行能力を高める。
アビスは水様汎用度を高めるために、水中能力を高める。
ガイアは陸地での戦闘力で勝るために、機動力を高める。
最初に三機の設計図を見たときに、二人の間でそれを決めた。
そこからは妥協なしで進んでいる。

先の大戦を知らない者も増えてきた。
フェイスをつけているハイネはもちろん。
女性でありながらあのヤキン・ドゥーエ戦を生き抜いたとしては、まるで伝説のような言われ方をされることもあった。
そのたびに、は苦笑いを返すだけだった。

自分が生き残れたのは、アルの犠牲があったからなのだと、苦しかった。
ヤキンの話を聞きたがる者たちに、ハイネはいつも笑って話を切りあげた。
「俺たちは上の命令で戦っただけだぜ。英雄なもんか。」と。





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【あとがき】
 アスランがキラと通信できなかった理由は、ちゃんと通信してたから(笑)