動きの予測ができなかった。
きっとがガイアのパイロットであったなら、あんな動きはしない。
無駄があるように見えて、スキがない。

目の前でフリーダムと交戦するガイアは、の知る機体とはまるで別物だった。










〔 オレンジへのあこがれ −運命編・ACT.16− 〕










!」
キラとの交信が切れて、今度はヴィジョン付きでハイネとの交信がつながった。
ハイネのグフがの機体の右をすり抜ける。
が振り向く間もなく、閃光が烈しくの機体の後ろから輝く。
メインカメラを後ろに振ると、ハイネのスレイヤーウィップがムラサメ数機を一網打尽にしたあとだった。
「ラッキー。ってね。俺のを後ろから狙うなんて、ずいぶんじゃないの?」


同時にドオンという鈍い食い音がする。
音とともに海面に打ちつけられるガイア。
キラのフリーダムがあっという間にガイアを薙ぎ払ったのだ。

「キラ・・・。」
「あいつ、本当に何が目的なんだ?まさか本当に戦闘停止だけが目的なのかよ。」
ハイネがフリーダムを見上げて、舌打ちしながら言った。
「『カガリにわかってもらうため』・・・キラ、そう言ってた。」
腑に落ちない思いは、もハイネも同じだった。
それでも戦闘中に考え込む余裕も、時間もない。


何を合図にしたわけでもなく、とハイネの機体がパッと離れた。
新しく出来た空間を、ガイアが裂く。
フリーダムにやられてもなお、戦意は喪失していないようだった。

「いい反応だ、。」
こんな状況だというのに、ハイネから誉めれることはやはりにとって誇りだった。
自然に浮かんでしまう笑みをこらえて、はもう一度ガイアを見た。
「俺たちなら楽勝。、いくぜっ!」

ハイネの声を合図に、二機でガイアにかかる。
ハイネとだからこそ計れる間合い。
もしこれが別の者とのコンビネーションであったなら、ここまで間合いをつめて戦うということは出来なかっただろう。
ガイアがどこに重点を置いて開発されたかを知りつくしている二人。
決して陸上に降りず、それでもガイアが攻撃可能な距離をとりつつ、攻撃を続ける。
ガイアは攻撃のために間合いをつめなければならず、地面を蹴る動力が必要なため、本来の力が発揮されることはない。

飛び掛ってきたガイアをひらりとかわし、はガイアが着地する瞬間を狙って機体を蹴りあげた。
「そりゃっ!」
バランスを崩すガイアの左足に、ハイネのスレイヤーウィップが絡みつく。
力任せにガイアがそれを引きちぎろうとしたとき、すさまじい電流がガイアに流れた。
「ザクとはちがうんだよ!ザクとはぁっ!」
怯んだ隙を逃さずに、ハイネはガイアをそのまま地面に叩きつけた。


創った者だからこそ知る、弱点。
とハイネと対峙した時点で、ガイアに勝ち目はなかった。
そのままガイアの撤退を確認すると、は戦況を確認する。
地球軍の主力機がやられたことで、どうやら全軍に帰投命令が出たようだった。
オーブ軍も撤退し、それを見守るようにフリーダムもアークエンジェルへ帰投していく。
はそれを、苦々しい思いで見送った。



***



ミネルバの与えられた被害は、想像以上に大きかった。
艦首砲を発射直前に爆破されたことによる艦の被害はもちろん。
人的被害も大きかった。

これまで難しい戦局をくぐり抜けてきたミネルバだったが、幸いにも被害は最小限で済まされていた。
一度に30人以上ものクルーが命を堕とすことなどなかった。

ミネルバの甲板に、ビニールシートに包まれて遺体が並べられた。
その光景を横目に、整備士たちはミネルバの修理にとりかかっている。
悲しむ余裕すらない。
仕事を終えたパイロットたちは、ただその光景を見ていることしかできずにいた。


「どうして、こんなに・・・。」
シンがその光景から目を離せずに言った。
「地球軍にやられたんならわかるわよ。どうしてあいつら・・!」
ルナマリアが感情を抑えきれずに叫んだ。

納得がいかない。
それが正直なみんなの思いだった。
相手が敵か味方かもない。
事実アークエンジェルは、艦首砲を失って圧倒的に不利になったミネルバを、その後援護していた。
最初はザフトを攻撃しておきながら、次には地球軍を攻撃していたのだ。
通常の戦争行為から激しく逸脱している。

沈みこんだパイロットたちの頭を、ハイネが順番にぽんぽんぽん、と叩いた。
さすがにレイも慣れないことに驚いている。
頭に手をあてながら振り返ったたちに、ハイネはまたいたずらっぽく笑って見せた。
「俺たちの次の仕事は、各自ちゃーんと休むこと。」
ハイネはぐるりとみんなを見回して続けた。
「あとの判断をするのは、俺たちじゃあない。」

そう言われてにはほっとする部分もあったが、複雑な思いもあった。
彼らとは、知らない仲ではない。
ラクスとは思いも同じくしていたはず。
自分が話せば、何かが変えられるかもしれない。
そんな思いもあったから。


ハイネに促されるように、たちは部屋に戻ろうとした。
がハイネを振り向くと、ハイネは一人甲板の方へ歩いて行った。
「ハイネ?」
部屋で休むように自分たちには言ったのに、ハイネのその行動を不思議に思っても立ち止まった。

「どうしたの?。」
が止まったのを見て、ルナマリアが声をかけた。
ルナマリアの声で、シンもレイも足を止めて振り返った。
「ハイネが・・・。」
それだけ言うとはハイネの後を追った。
ルナマリアとシンとレイも顔を見合わせて、そのままの後を追いかけた。


ハイネは一人の遺体の横に座りこんでいた。
その顔にはめったに見せない苦いものが浮かんでいた。
苦しそうなハイネの顔に、かける言葉が見つからないだったがハイネの方がに気づいた。
そして、淋しそうに笑った。

「俺の同期。」
言われては、ハイネが座りこんでいる隣のシートに包まれたモノを見た。
すっぽりと包まれているその遺体が、誰だったのかを知ることはできない。
それでもには一人のクルーの顔がはっきりと浮かんだ。
前に、ハイネに同期だと紹介された人がいた。
もともとはパイロットとしてアカデミーを卒業し、その後専門知識を学び直して艦の電子回路整備を担当していると聞いた。
艦首砲発射にあわせて、ちょうどその付近に待機していたのだろう。

「こうやって同じところにいて、・・・亡くすのはツライな。」
の後ろではシンたちが同じような表情で目を伏せた。
同じ艦にこうして乗っていて、今日亡くした人たちは誰も知らない仲ではない。

ハイネが立ちあがる。
「あいつも・・・この歌が好きだった。」
そう言って、ハイネは息を大きく吸いこんだ。

海風に乗せられて、流れる『痕跡の歌』。
その歌声の届く誰もが、はっとして仕事の手を止めた。
甲板では音が消え、すべての視線がハイネに集まる。
そんなことに微塵も気をとられることなく、ハイネは歌を紡ぐ。

「あれ・・・。俺、なんで?」
自覚もなく涙を流したシンは、てのひらにぽつんと落ちた自分の涙を見て驚いた。
その横ではルナマリアも声をあげずに泣いていた。
誰もが涙をこぼしていても、それはとても静かな時間だった。




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【あとがき】
  やっぱりあそこでハイネが死ぬはずがない。という想いのほうが勝ちました。
  だって「オレンジ〜」のハイネは、アレのテストパイロットですし。