「アスランの様子はどうだった?」
戻ってきたハイネにが聞いた。
ハイネは肩をすくませて答える。
「やりきれないってのが本音だろうな。戦いたくないってさ。」
〔 オレンジへのあこがれ −運命編・ACT.14− 〕
ハイネの言葉に、の顔にはまた悲しみの表情が宿る。
「本当に・・・。正反対なんだから。」
「ん?」
「シンとアスラン。オーブを思う気持ちは同じなのに、どうして逆の答えが出るんだろう。」
戦いたくないと言うアスラン。
俺が討つと言うシン。
それでも、二人の思いが同じように、オーブにあることをは知っている。
「戦えないなら、戻ってきちゃいけなかったのに・・・!」
アスランへのもどかしい思いを、は拳に握りしめた。
だからハイネは言ったのだ。
フェイスとして戻ってきたアスランに。
『ザフトは組織なんだぜ。お前、また命令に従って戦えるのかよ。』と。
あのときはひどいことを言うハイネに驚きもしたが、ハイネはこれを見越していたのだろう。
アスランが復隊した理由は、やはりオーブのためという思いが根本にあったことを。
ハイネはの頭を撫でた。
「あいつも、難しく考えすぎなんだよ。大切なものは、いつだってひとつしかないのに。」
ハイネはの左手をとって、そこにはめられている指輪にくちづけた。
「シンは、戦うって?」
視線を指輪に落としたままでハイネが尋ねた。
「あ・・うん。『今度こそ俺が叩き潰してやる』って、すんごい剣幕で。・・それが心配でしかたないのに。」
「いい意味で感情が素直だからなぁ。そんなことしたら一番傷つくのはシンなのに。」
傍から見ていれば、シンのこともアスランのことも、とてもよくわかるのに。
二人の思いは交わらない。
気づかせてあげることすらできない。
答えを見つけるのは、自分でしかないから。
もどかしさを噛みしめて自分を抱きしめたを、ハイネはそのまま抱きしめた。
***
「やれやれ、この緊張の中で待機ってのも嫌なもんだな。」
不意に通信回線が開かれ、バイザーをあげたハイネが通信画面に映し出される。
すでにシンのインパルスとアスランのセイバーは発進したあとだ。
オーブがくる。
と、複雑な思いでむかえたダーダネルス海峡での戦闘。
よりによって一番複雑な気持ちで待ち受けた二人が、最初の出撃となった。
「艦長も、割り切れってことなんだろうけどな。・・あいつらにとっちゃ、どっちがいいのかね。」
苦笑いを浮かべながらに話しかけるハイネ。
はそれにあいまいな笑顔だけで答えた。
二人の気持ちを思うと、できれば先に出撃するのは自分たちでありたかった。
ミネルバのメインカメラからの映像が、小さく映し出されている。
迷うことなくオーブのムラサメを撃ち墜としていくインパルス。
その映像に、の胸が痛む。
シンは一体、どんな気持ちで・・・。
「ー?」
間延びした声でハイネに呼ばれて、は弾かれたように顔をあげた。
「いつまでも別の男にそんな顔すんな。妬くぞ?」
「は?・・えぇっ?!」
の表情を楽しむように、ハイネは通信回線の先でにやりと笑った。
その笑顔のまま消された通信。
まるで自分の本音を隠すように。
はハイネの顔を思い出して、ふと笑みをこぼした。
いたずらっこのようなハイネ。
ときどき。本当にときどき、こうして見せてくれるその表情に、嬉しさがこみあげる。
「ハイネ・・・。」
が名を呼んだと同時に、艦が激しく揺れた。
「なにっ・・?」
「私は、オーブ連合首長国首長、カガリ・ユラ・アスハ!オーブ軍、直ちに軍を引けっ!」
ミネルバのメインカメラの映像と、全周波回線で流れてきた言葉に、二度驚く。
映し出されたのは前大戦の英雄たち。
アークエンジェル。そして、フリーダム。
そのとなりに、紋章を背負ったストライクガンダム。
おそらくあれに乗っているのが、カガリ・ユラ・アスハ。そして、
「キラ・・・。」
あの日のオーブでの再会から数ヶ月。
『モビルスーツになんて、乗りたくない。』
彼はあの日、夕日を背にしてそう言ったはず。
なのに、なんでまた・・・。
「あなただって、同じじゃない。」
に沸いてきたのは怒りだった。
あの日、キラはがいまだにモビルスーツに乗っていることを責めた。
自分はもう、そうして人を殺したくないと。
それなのに、今のうのうと目の前に。モビルスーツに乗って・・・!
「ちょっとメイリン!何がどうなってるのか教えなさい!」
チームの回線が開かれて、ルナマリアが声を張りあげた。
「えっと・・おそらくフリーダムからの攻撃でミネルバの艦首砲が破壊。かなりの損傷が出てて・・・。」
「撃たれたのっ?!じゃあアレは敵?」
「わかんないよぉ・・・。」
姉妹ケンカのような会話に、他の誰も入っていけない。
助け舟を出してきたのは艦長だった。
「まだ状況は不明よ。あちらの艦が何をしたいのかもわからない。ただ訴えているのはオーブ軍の停止。」
「はい。」
「ただ、この状況で戦闘が止まるとは思えないわ。・・本当に何がしたいのかしらね。」
頬杖をつきながら艦長があきれたように言った。
「艦長。」
混乱した中で、ハイネの発した声は迷いなくいっそ清々しかった。
「何かあったらこっちも出ますよ。」
艦長はその言葉に穏やかにほほ笑んだ。
「そうね。お願い。」
ブリッジとの通信はそこで切れた。
「艦首砲がやられてるなら、こっちは相当ヤバイぞ。出たらとにかく敵を討つより艦を守れ。」
「了解しました。」
ハイネの指示にレイが答える。
「このまま撃ってくるなら、あいつらも敵だ。いいな。」
「地球軍に加えてあっちも?!冗談でしょ?」
「冗談だったら嬉しいよなぁー。」
ルナマリアの本気の言葉に、ハイネは笑いながら答えた。
「もう、こんなときに・・・。」
が横から口をはさむと、ハイネはなおもいっそう笑った。
「そんな顔してんなよ、まで。そら、そろそろ行くぜ。」
見ればオーブの艦隊からミサイルがストライクへ放たれ、フリーダムがそれをすべて撃ち落した。
オーブはあの声を首長のカガリだと認めなかった。
当然だ。
ここでの戦闘停止は条約破棄につながり、オーブはまた連合に焼かれる。
「さぁ、行こうぜ!」
ハイネがまた声をかけた。
は気持ちを新たにコックピットに座り直した。
back / next