「キレイだね。海、キラキラしてる。」
「やっぱ、こういうの見ると地球ってすごいよなぁって思うよな。」
レンタルした車に乗って、とハイネは海辺に来ていた。
あと数時間で赤服に戻る二人は、今だけはどこから見ても普通の恋人同士の装いだった。










〔 オレンジへのあこがれ −運命編・ACT.12− 〕










「こういう風にぼーっとしてると、平和だなぁって勘違いしそうだな。」
「うん。」
「ちょっと降りてみるか?」
波打ち際をハイネが指して言った。
「うん!」

は嬉しそうに返事を返すと、ハイネの腕をとった。
腕を組んで歩くことも、いまでは二人の当たり前の姿だった。


「ミネルバの戦歴。俺は見るたびに心臓が止まるかと思ったぜ。」
素足になったが海側を歩いて、波を蹴りあげる。
そんなの無邪気な様子をまぶしそうに見て、ハイネが言った。

「あんな戦い繰り返して、いつ死んでもおかしくない。生きてるほうが不思議なくらいだ。」
急に真面目さを増したハイネの言葉に、は海の中に足を入れてたままハイネを見た。
ハイネは安心しろと言いたげな、優しい目をして続けた。

と、離れ離れのまま、また戦争が始まって・・・。
 俺は宇宙でプラントを防衛して、確かに大変だったが、宇宙戦はどうやったってザフトが有利だ。
 けど、地球に降りたミネルバは孤軍奮闘だろ?毎日・・・気が気じゃなかった。」
「ハイネ。」
初めて見せるハイネの思い悩む姿。
は海からあがると、ハイネの袖をそっとつかんだ。

ハイネはの掌に、自分の掌を重ねた。
「俺の知らないところでを失うのかと思ったら、俺は、今すぐにでも地球に降りたくてしょうがなくなった。」
は良く知っている。
ハイネは、自分の想い人を一度、ハイネの知らないところで失っている。

「ハイネ・・・」
を失いたくない。日に日にその想いが強くなって、どーしょもないんだ。」
ハイネは一度正面からを強く抱きしめた。
「あ、やっぱこっち。」
けれどすぐに身体を離して、後ろからを抱きしめなおすと二人で海を見た。
の目からハイネの姿が消えて、今足を遊ばせていた海が広がる。
繰り返される定期的な波の音に、の鼓動も合わせて揺れた。


「どーしょもなくて、俺が考えた結果。聞いてくれるか?」
「うん。なに?」
答えるとの首筋の近くにハイネの吐息を感じた。
それをくすぐったく思う間もなく、左手に感じる感触。
は身をよじってハイネの表情を伺おうとしたが、ハイネはそれを許さない。
そのままはハイネに強く抱きしめられたままで、左手を見ることもできないでいた。

。俺と結婚して。」

の鼓動が早くなる。
「ハイネ・・・?」
名前を呼んでも、ハイネはを抱きしめたままで答えない。
聞き間違いでなければ、ハイネの今の言葉はプロポーズで、の左手にはめられたのは指輪だろう。
けれど身体を拘束されているには、左手を見ることもできなかったし、問いかけてもハイネは答えてくれない。

波の音が静かに流れる。
まるで二人以外、この世界には誰もいないみたいだ。

「ハイネ。・・私は、だよ。・セフィロムじゃ、ないよ。」
そんなこと、ハイネに言ってはいけないのは自身がよく知っていたはずだった。
それでも今この状態で、聞かずにはいられなかった。
ハイネが怒りだすのではないかとは思ったが、予想に反してハイネは吹きだして笑った。
。お前、むかぁしの俺の告白、覚えてないのか?」



あれはまだ、前の戦争が激化をたどっていたころ。
敵を撃つことにも慣れ、ニコルの死に涙すら流せなかった
そんなに、ハイネが告げたこと。

『俺はきっとのことは忘れない。それでも新しく人を好きにはなるんだ。俺は生きてるんだから。』

死んでしまったは還らない。
それでも残されたハイネは生きている。
生き続けるハイネは、また別の誰かに恋をする。
の時間は止まり、ハイネの時間は流れる。
その違い。

ハイネにそのことの意味を教えたのが、アカデミーで出会っただった。
アカデミー最後の日のの言葉があったから、今のハイネがある。
ハイネがここに生き続けることを確認させてくれたのが、だったのだから。



「俺が今抱きしめてんのは、以外に誰がいるんだよ。」
耳元でささやかれた言葉。
「俺は、と生きていきたいんだ。」
ハイネのその言葉だけで、充分だった。




***




はそっと左手の薬指にくちづけた。
そこには、あの日から肌身離さずにつけている指輪がある。

「ハイネ・・・・。」

名を呼んだ瞬間、なんともいえない物淋しさが押しよせる。
はそれを振り払うように頭を振った。
操作レバーを握りなおして前を見据えると、気持ちが引き締まった。

『進路クリアー、機発進どうぞ!』
メイリンの声に、は自分に喝を入れて答えた。

、出ます!」
あの空のむこうに、自分のやるべきことがある。




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