ハイネ。
あの日々のこと、私忘れてないよ。
戦争とか、軍人とか。
そんなこと、すっかり忘れて過ごしたハイネとの時間。
あったかい、優しい時間。
ねえ。
ハイネは・・・?
〔 オレンジへのあこがれ −運命編・ACT.11− 〕
赤い軍服の上着をイスに脱ぎ捨てる。
ハイネはくるり、とのほうに向きなおる。
「フェイスの特権でスイートルームだ。くつろげよ、。」
うながされるようにイスに座らせられたの前に、今度はメニューがひろげられた。
「はらへったぁ〜。ほらも、なんにも食べてないだろ?」
広げられたのは、ルームサービスのメニューだった。
「俺もうまそーなメシの前で、おあずけくらったもんなぁ。なんにする?」
ハイネに言われて、にもようやく食欲が湧いてきた。
会食ではほとんど料理に手をつけていなかったのだから、当然だろう。
数分後。
ディオキア名物の地中海料理がテーブルの上に並んだ。
ハイネとは楽しく会話を交わしながら、その料理を完食した。
「なんかさ、議長、聞きたくないこと言ってくれたね。」
「戦争を商売にしてる。かぁ。考えたくないねぇ、そんなことは。」
唐突に語られたロゴスの話を思い出して、がハイネに投げかけた。
戦争は商売。
戦争が利益を生む。
だからやめられたら困る。
ナチュラル対コーディネーターの図式を、逆手にとるような輩の存在。
それがロゴス。
「戦争が利益を生むなんて、考えもしなかった。」
「そりゃ、これだけの投資だもんな。当然の利益だろ。ただ・・・。」
ハイネはそこで言葉を区切り、を見た。
「そんな考え方するようなやつは、ヒトじゃない。」
言い切ったハイネの瞳に、感情の色は見えなかった。
***
ハイネはの頬をゆっくりなぞった。
すやすやと聞こえてくる規則正しい寝息は、そんなことでは狂いはしない。
もともと一度寝てしまえば朝までぐっすり、なタイプのだ。
ハイネに抱かれた後は、なおさらだった。
ハイネはの身体が冷えないように、毛布ですっぽりと覆った。
そうして毛布の上から抱きしめると、の頬を何度も撫でた。
「ほんっと、起きないよな。」
楽しそうに笑う。
終わったあとで、すぐに服を着るのも余韻がない。
そのまま素肌で抱き合っているうちに、は寝てしまうのだ。
せめて服を着せたかったが、以前にそれをしたところ拒否反応を示された。
それからはこうして、の身体を毛布で包む。
何度愛を確かめ合っても慣れない、恋人のために。
「俺たち現場が知らなくていいことを、どうして議長は口にしたのか。」
ハイネの脳裏に、あの時の議長の顔がよぎる。
議長を「希望の人」と尊敬するには到底言えなかったが、ハイネはあの瞬間に違和感を感じた。
それまでの議長とは違う、なにか。
まるで次の敵を示唆するような、あの口調。
ロゴスはザフトにとっては敵じゃない。
なのに、なぜ・・・?
「う・・・うぅん・・・」
が抱きしめられた腕を押しのけるようにして寝返りをうった。
顔を背けられてしまったことに、ハイネが苦笑いを浮かべる。
「おやすみ、。」
ハイネはの背中に、唇をよせた。
何も知らないままで、は眠り続けていた。
そんな時間が、とても幸せだった。
***
朝食をハイネととっていると、いかにも不機嫌そうなルナマリアが降りてきた。
その隣には、相変わらずボケッとしたシンが並んでいる。
朝の挨拶を交わすと、二人もハイネとの席に着いた。
「・・・なんか、ルナマリア機嫌悪いね。」
思い切ってが聞いてみても、ルナマリアは「別に!」と返すだけだった。
明らかに怒ってるのに。
シンもと顔を見合わせて、不思議そうな顔をした。
シンにも不機嫌な理由はわからないらしい。
そこへひときわ高い声が聞こえてきた。
四人がその声の主を見ると、ラクスがアスランの腕をとって降りてくる。
やっと合点のいったは、なるほど。とラクスとアスランを見た。
ハイネもますます不機嫌になったルナマリアの顔を見て、思わず吹いて笑ってしまった。
「おーい、アスラン!」
ハイネが手を上げてアスランを呼ぶ。
と、アスランはこれでもかというように絡み付いていたラクスの手を払いのけた。
「ハイネ!昨日はろくに挨拶もできなくて・・。」
「いいっていいって。それより、仲いいんだな。」
探るように言ったハイネに、言葉の真意を読み取ったアスランが憮然とする。
「・・・別に、いいわけじゃないですよ。」
珍しいアスランの感情に、ハイネは笑いをかみ殺した。
「悪い悪い。怒るなよ。」
アスランと連れ立ってやってきたラクス(偽者)は、会話に加わることなくマネージャーに連れて行かれてしまう。
顔を合わせても困るだけだったは、ほっと胸をなでおろした。
「復隊したって聞いて驚いたぜ。しかもフェイスだって?会うのはヤキンですれ違って以来だよな?」
棘続きのハイネの言葉にアスランが顔を曇らせた。
ザフトの公式記録で、アスランはあの戦いには出撃していないことになっている。
フリーダムとジャスティスの記録はあっても、所属勢力不明、パイロット不明で処理されているのだ。
少し怒ったような顔をしたアスランを、ハイネがいさめる。
「怒るなって。俺たちはちゃんとわかってるよ。お前がなにをしたくてあそこにいたのか。
大体、俺がお前を裁く権利を持ってるわけでもないしな。」
周りに他のザフト兵の姿もなかったため、ハイネが思いのまま正直に言うと、アスランもようやく緊張を解く。
「だけどアスラン。戻ってきたって聞いたとき、本当にびっくりしたぜ。」
ハイネはアスランのフェイスバッジを指差して言った。
「ザフトは組織なんだぜ。お前、また命令に従って戦えるのかよ。」
「ハイネ!」
さすがにが、ハイネの袖を小さくつまんで声を出す。
まるで喧嘩をふっかけているようなハイネの態度に、少し怖くなったのだ。
にとったらアスランは大切な同期だ。
ここに着くまでにも、戦闘において指揮をとるアスランにずいぶんと助けられている。
ハイネがこうして他人の行動に意見することも、にとったら意外だった。
「俺だって、ちゃんと考えて決めたことだ。」
少ない言葉だったが、アスランの声はしっかりとしていた。
その声を聞いて、ハイネは表情を緩めた。
「そっか。ならいいさ。お前の実力は知ってるし、頼りにしてるぜ。」
ぽん、と拳でアスランの胸を叩いてハイネが言った。
「ハイネ、それどういう意味?」
期待をこめては確認してしまう。
ハイネはぐるりと見回して、にはウインクをした。
「休暇明けからミネルバに配属だ。よろしくな。」
back / next