「えっ・・・?議長と会食?!」
激しく動揺し始めたをよそに、ハイネはその反応を楽しんで見ていた。
感情をきちんと表現するの姿こそ、ハイネが会いたかった一番の姿だった。










〔 オレンジへのあこがれ −運命編・ACT.10− 〕










談笑した後で、突然ハイネからこのあとにデュランダル議長を交えての食事会だと言われた。
そのとたん、の胃がキリリと音を立てた。

の家庭環境がそうであるように、「議長に会うから」という理由からではない。
ギュランダル議長は、がザフトに希望を見出したきっかけの人なのだ。

ハイネはそんなの表情を楽しみながら続けた。
「並々ならぬ戦歴を讃えたいそうだ。よかったな。」
「はァ―――・・・。だめだ。今からもうドキドキしてる。食事なんてできないよ。」

なんだか気持ち顔が青ざめてきたに対して、シンがあっけらかんと言う。
「でも議長って、レイの後見人だって知ってた?そう思えば平気じゃん?」
友人の家に遊びに行って、夕食もついでにごちそうになる。
シンはそれぐらいにしか思ってなさそうだ。

「こういうとき、本当にシンのその思考がうらやましいよ。」
は思わずつぶやいた。


案の定、食事の場ではほとんど食事に手がつけられなかった。
護衛の任でその場にいたハイネは、そのをほほ笑ましく見守っていた。




***




「今日はこのホテルに部屋を用意したよ。久しぶりにゆっくり身体を休めてほしい。」
「ありがとうございます!」
ミネルバのパイロットたちが一斉に敬礼をする。
アスランだけが議長に呼ばれて行ってしまうと、はようやく大きなため息を吐いた。

「はあぁ・・・すごい緊張した。さすが議長。」
。それは必要ない。ギルはみなと率直に話をしたがっている。」
レイの答えにシンが「ほらね」と言わんばかりでを見た。

「でもさー。議長は特別なんだもん。希望をくれた人だからさー。」
「なにそれ、初耳。」
。俺も聞きたい聞きたい!」
ぼそっと漏らしただけの言葉に、ルナマリアとシンが食いついてくる。

「そんなたいした話じゃないんだけど・・・。」
遠慮するだったが、ルナマリアもシンも目を輝かせたままだ。

「たいしたモンじゃないなら話してやれよ。」
ハイネにうながされて、は話した。
イザークとディアッカの裁判で聞いた、議長の言葉を。


「『辛い経験をした彼らにこそ、私は、平和な未来を築いてもらいたい』
 議長はそう言って、戦争の中で人を殺した私たちを救ってくれた。」
戦争という名の元に許される、人を殺すという行為。
それは本来、人の道を外れる犯してはならない行為だ。
それが戦争の中では黙認されてしまう。
どうしてだか、答えられることはできない。
ただそうしなければ、死ぬのは自分のほうだった。

「だから私は今も、ザフトにいるんだと思う。あのときの議長の言葉・・・。
 『ひとりひとりのその思いが、やがて世界を救う』っていう、あの言葉を聞いたから。」
「ギルならできる。俺も、ギルの目指す世界のために、ここにいる。」
の言葉にレイが賛同した。

「俺たちがそのためにやらなければならないことは多い。油断するなよ。」
もちろんレイはその後に釘をさすことも忘れない。
ハイネがひゅうっ、と口笛を吹いた。
「カタイねぇ〜。」

レイは少しハイネの顔を見たが、そのまま何も言わなかった。
「今日は俺が艦に戻る。シンもルナマリアもも、今日はここに泊まれ。」
「は?でもレイそれじゃ―――」


突然切り替えられた話に、シンは慌てたようにレイに言いすがる。
「シンの功績は俺を上回るものだし、ルナマリアとは女性だ。艦に残るのは俺がふさわしい。」
いつものように簡潔に述べて、レイはさっさと行ってしまう。

ルナマリアがシンとの顔を交互に見た。
「甘え・・・ちゃう?」
「甘えちゃえよ。」
答えたのは問われた当人たちでなく、ハイネだった。

「あいつの言ってることはもっともだと思うし、あいつ、このことで引きずるタイプじゃなさそうだしな。」
「でもそれじゃレイが・・・。せっかく議長が用意してくれたんだし。」
シンが意見すると、ハイネが笑って言った。
「そう思うんなら帰ってからジュースでもおごってやれよ。あんまり遠慮してっと、かえってよくないぜ?」

ハイネの言い分に、三人とも納得する。
ハイネは強制するでなく、こうして人を納得させられる不思議な説得力をもっていた。


「じゃあ。私たち今日は一緒に―――」
は俺と一緒。」
ルナマリアがに相部屋を提案しようとすると、の肩ににゅっとハイネの手が伸びた。

「は?!」
一番驚いた声をあげたのはだった。
ルナマリアとシンは目を丸くして、すぐに顔を赤くした。

「またな。」
片手を挙げて、連行するようにの肩を抱いたまま歩き出すハイネ。

「ちょっ・・!ハイネっ?!」
がいくら抗議の声をあげても聞く耳もたず。
角部屋のスイートルームにやってくると、恐ろしいほどの笑顔でドアを開いた。


「はい、到着。」





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【あとがき】
 種→種運命の間で、当然二人はこんな関係。