ディオキアでは、歓迎ムード一色だった。
「なに?この騒ぎ!」
艦を降りるなり大音響でかかる音楽に、ルナマリアは耳をふさいだ。
「うわっ!」
「すげぇ」
ヨウランとヴィーノは我先にと飛び出していった。
は聞こえてきた前奏に顔をしかめた。
誰がここで歌うのか、わかってしまったのだ。
正確には、正体の知れない誰かがの友人のフリをして歌うことが。
アスランを見れば、やはり困ったように笑っている。
が、が話しかける間もなくルナマリアとメイリンに引きづられるようにアスランは連れて行かれてしまう。
「なんか降りてきた。」
隣でボーっと立っていたシンが、空を見上げてつぶやく。
声につられても空を見上げた。
〔 オレンジへのあこがれ −運命編・ACT.09− 〕
まぶしい太陽の下、ハデなピンクでカラーリングされたザクが降下してくる。
そしてそのピンクのザクを支えるのは、これまた色鮮やかなオレンジの新機体。
「・・・・うそ。」
そのオレンジの機体に釘付けになったは、ステージの裏手に向かって駆け出す。
「!どうしたんだよ?」
その突然の行動に驚いたシンが、の後を追った。
ザフト兵でごった返すステージの横をすり抜け、は機体が降りた場所へ駆けつけた。
ステージでは予想通り、『ラクス・クライン』を名乗る少女が歌を歌い始めていた。
はオレンジの機体の下で、息を整えながらコックピットを見上げる。
はやる気持ちのには、やけにゆっくりとコックピットが開くように感じられた。
コックピットから顔を出した人物を見て、は不覚にも涙がこぼれそうだった。
顔を出したのは、機体の色と同じ髪をした青年。
愛機の足元にいるを見つけるなり、ニヤリと笑った。
『予想通りの顔だな。』
ハイネの声が聞こえる気がする。
「ハイネ!」
は声を張り上げるが、大音響にジャマされてハイネには届かない。
ラダーにつかまってハイネが地上に降りてくる。
からしてみればずいぶんと高い位置で、ハイネはラダーから手を離して飛び降りた。
「!」
「うわ!?」
飛び降りるなり、ハイネはを横に抱き上げる。
「元気だったか?」
「ひゃっ!?」
そしてハイネはそのまま、すばやくの耳元近くの頬に口づけた。
突然の行為には奇声を上げて、シンは顔を赤く染めた。
「なっ・・なにっ・・・?!」
「落ち着けよ。」
激しく動揺するに対して、ハイネはケロリとして言った。
は言いたいことの考えがまとまらず、ぐっと言葉に詰まる。
そして自分たちを呆然と見ているシンにようやく気づき、シンよりもさらに顔を赤くした。
「と・・りあえず・・。おろして?ハイネ。」
「ん?」
一瞬だけが向けた目線の先に、隙なく気づいたハイネはシンを見る。
そしてふっと勝ち誇ったような笑みを見せた。
「いいだろー。」
ハイネに抱き上げられたまま、はがっくりとうなだれた。
シンは何と返していいかもわからずに、口をぽかんと開けている。
が、さすがにシンはハイネの胸元に輝くフェイスバッチを目に留めた。
「あっ!」
驚いて、あわてて敬礼する。
ハイネはそんなシンに対してにこやかに笑った。
を地上におろすと、ハイネはシンと同じように敬礼をして返した。
「と同じ、ミネルバのパイロットか。特務隊ハイネ・ヴェステンフルスだ。ヨロシクな?」
「シン・アスカです。」
ハイネとシンがそう言ったところで、歓声がひときわ大きくなった。
ザクの手の上で少女がちょこんと頭を下げている。
ハイネはそれを見上げた。
「ここじゃあ落ち着かないな。行こうぜ?」
そうしてとシンまでも、ハイネに連れて行かれてホテルのロビーへ向かった。
***
ディオキアはもともと海を売りにした観光地だった。
海辺にはリゾート地が建設されて、ザフトはそのリゾートホテルを借りきっていた。
「機体、あのままでいいの?」
がオレンジの機体を振り返る。
「軍事工場なんてないしな。見える位置でいいじゃないの。」
「あれ、新型ですよね?なんて言うんですか?」
シンが同じようにオレンジの機体を振り返って聞いた。
「グフ・イグナイテッド。また開発に関わったんだぜ?俺。テストパイロット専門かよってーの。」
うんざりした様子でハイネが答えた。
がくすくす笑う。
そんなの笑い方を見るのは、シンは初めてだった。
「へーえ、ってそんな風にも笑うんだ。」
「え?」
「俺たちといるとき、そんな風に笑ったことなかったからさ。へーえ。」
にやにやっと笑うシンにがむうっと不機嫌になる。
「なによ。」
「べっつにぃ。」
両手を頭の後ろに当てて歩くシンの様子は、の不機嫌をますます高めた。
が、それ以上に不機嫌になったのはやっぱりハイネだったのだ。
「お前ら、いちゃいちゃすんな!」
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【あとがき】
白馬に乗った王子様、ならぬ、オレンジのグフに乗った王子様登場!