「ありがと、。」
ミネルバへ戻る道の途中でシンが言った。

「俺、やっぱり行けてよかったかも。」
「うん。」
何かを決意したかのようなシンに、は簡単な返事だけをした。
ただ、シンの心が少しでも休まればと、は願っていた。










〔 オレンジへのあこがれ −運命編・ACT.08− 〕










「ほんっとにもう!すべてメチャクチャな国ね、オーブって!」
「・・・ちょっと、痛い、かな。ルナマリア。」

戦闘を終えて帰投したミネルバのブリーフィングルーム。
後ろからルナマリアに首を羽交い絞めされたが、遠慮がちに言った。
ルナマリアはたび重なるアクシデントに怒り心頭だった。
「シンがいなかったらあたしたち、ほんとーに死んでたわよ!」

「ミネルバごと、な。」
レイがさらりと、なんでもないことのように言う。
「レイ。あたしは!どーしてあんたがこんな状態でも平然としてられるのか、わかんないわ。」
「結果が問題ないんだ。騒いでも仕方ない。」

「うう〜・・。ーっ!!」
反論できずにルナマリアがに泣きつく。
はルナマリアの頭をよしよしと撫でた。
「うん。大変だったけど、良かったね、ルナマリア。」
が言うと、ルナマリアはそのままの首に抱きついた。

ルナマリアの手が、少し震えていたのがわかった。
さっきの彼女の様子も、彼女なりに自分の気持ちを誤魔化していたのだろうとわかる。

怖かった。
本当に死を覚悟したのは、ルナマリアはこれが初めてだったかもしれない。

は後ろ手でルナマリアの頭を撫でながら、黙って缶ジュースを飲んでいるシンを見た。
あのシンがとても落ち着いていることが、やたらとには不安だった。




***




世界平和条約機構は、地球上に住むナチュラルのための条約だった。
大西洋連邦が呼びかけた中にオーブも含まれ、政論に後押しされる形で条約が結ばれた。
大西洋連邦が開戦を宣言し、ミネルバは逃げるようにオーブを後にしたはずだった。

そこに待ち構えるように航路を塞いできた地球軍艦隊。
その数もさることながら、初めて見るモビルアーマーにミネルバの艦首砲は撥ね飛ばされた。
背後ではオーブ軍艦体が退路を塞ぐ。
オーブ領域に戻ることは許さないという姿勢が、容易に見て取れた。

オーブからの攻撃を受けて、には「シンがぶっ飛んだ」という印象だった。
人が変わったかのように冷静な状況判断と戦闘態勢。
あっという間に苦戦していたはずのモビルアーマーを倒し、地球軍艦隊の全てを海に沈めた。
無事に活路を開いたミネルバは、こうして奇跡の航行を続けてた。


あのときのシンの姿は、まるで鬼神のようだった。
敵よりも速い速度で攻撃を繰り出す様は、いつもの彼の力以上に思えた。
決して劣っているわけではないシンの力が、さらに増幅して振り回された。
その結果が、敵艦隊の全滅。

もちろんそうでなければミネルバは沈められ、自分たちは命を落としていたのだが。
それよりシンの変ぼうぶりは、味方であっても怖いくらいだった。

は、あの慰霊碑の前でのシンの様子を思い出す。
シンの怒りに染まった赤い瞳。
あの瞳が、の心に焼き付いて離れなかった。




***




カーペンタリアに入港すると、予想もしていなかった人物がミネルバに乗艦した。
「認識番号285002、特務隊フェイス所属アスラン・ザラだ。」
明らかにXナンバーの流れを汲むザフトの最新鋭機、セイバー。
そこから降りてきたのはつい先日分かれたばかりの仲間だった。

「なんで、戻ってきたの?」
フェイスゆえ、アスランに与えられたひとり部屋。
乗艦後の準備を見守るように、部屋のドアの入り口には立っていた。

「今の俺にできることは、こんなことくらいしかない。」
もともと陽気な性格ではないアスランだが、今の彼からはいつも以上に陰気な空気が出ていた。

「そんな顔するなら、どうして戻ってきちゃったの。」
の言葉に、アスランが合点がいかない様子での顔を見た。
けれどアスランがを見たとき、の顔はすでに笑顔に変わっていた。

「ミネルバのパイロット、性格的にアスランと合わないよー。」
暗にシンのことだと匂わせて、ふざけ半分でが言った。
アスランも苦笑して返した。
「知ってるよ。」




***




案の定、シンとアスランの間にはごまかしきれない壁があった。
建設中の地球軍基地をシンが破壊したとき、アスランがシンの頬を叩いたことで関係はさらに悪化した。
それでも間を取り持つの存在があったことは幸いだった。
その後、アスランの作戦によりシンがローエングリン砲台を撃破したことにより、二人はわずかに歩み寄った。

砲台を破壊したことで解放された国、ディオキア。
そこにミネルバが入港する前日、一通のメールがの元に届いた。


「『あさっての休暇、予定空けとけ』?」
送信者は特務隊ハイネ・ヴェステンフルス。

確かにはディオキアに入港して翌日が休暇日に当たっていた。
今回はルナマリアと休暇も合わず、始めていく場所に予定を立てることもできずにいた。
だからハイネからのメールがなくても、予定は空いていた。

「でも、ハイネは宇宙だよね。・・・なんだろ?」
ご丁寧にもハイネのメールの文末には大きく『返信不要!』の文字。
に選択権はない。
疑問が残るメールだったがは『ハイネだから』と、たいして気にしなかった。





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【あとがき】
  お待たせしました!えぇもう本当にお待たせしました!
  やっとやっと、愛しの憧れのオレンジがやってきます!
  ・・・・もう、本当に早く再会させたかったです。(ホントに)