「ここって・・・。」
潮風になびく髪を押さえながらが問う。
そのときのが見たのは、いつもと違う大人びたシンの表情だった。

「父さん、母さん。・・・・・マユが、殺された場所。」
いつもより一段低い声で、シンが告げた。










〔 オレンジへのあこがれ −運命編・ACT.07− 〕










「争いが嫌で、コーディネーターとかナチュラルとか、そんなのが嫌でこの国に来たのに。」
両手に拳をつくり、シンはそこに立っていた。
「信じてたのに・・・!」

シンは怒りに肩を上下させながら、言葉を吐き捨てた。
「最後の最後で・・・殺された!」

シンの傷は癒えるどころではなく、怒りとなり燃えあがっているようだった。
突然に奪われたシンの幸せ。
それはどれほどの痛みを、シンに与えたのだろうか。

シンは、花畑になっている山に続く坂をニラみつけていた。
声をかけることがはばかられて、はひとり、その場を離れた。


海にとても近いところに、石碑が見えた。
は石碑に向かって歩いた。
石碑の前には、すでに先客がいる。

近づくの足音に気づいて、先にいた少年がを振り向く。
夕日の中、瞳を合わせた二人は、共に驚きで目を丸くした。

「・・・・。」
「キラ・・くん?」

が彼を名で呼ぶと、キラは嬉しそうに笑った。
「覚えていてくれた?」
はその笑顔に気まずさを感じて、目を泳がせた。

彼はとても人懐こい笑顔をむけてくれているのに、にはそれを返すことができない。
彼の存在がフリーダムのパイロットで、敵だった。と、の中で認識されてしまっているからかもしれない。

「・・・・そうか。今は、ミネルバに・・・・やっぱり、ザフトにいるんだね。」
『あんな思いをしたのに。』
キラの声が聞こえた気がした。

「私は・・・今度こそ、ザフトは間違えないって、思ってるから・・・。」
だからは、自分がまだここにいる理由を告げた。
「じゃあもし間違えたら、そのときはどうするの?」
が、キラの問いは冷たかった。
まるで、もうザフトが間違ってしまっているかのように感じる言い方だった。

「あなたに・・・何がわかるの・・・?!」
このときもまたキラの言葉が、の気持ちを逆なでた。

「僕はもう、戦いたくない。人を殺したくない。モビルスーツになんて、乗りたくない。」
キラの言葉が、の心に刺さる。
そんなこと、自分だって同じだ。
でも、それでも、アルの死を乗り越えられない。
まだこうして、モビルスーツに乗っている。
ザフトにいる。


ユニウスセブン落下事故によって、世界はまた揺らぎ始めている。
そのことに気づいていないわけじゃない。
けど――――!

アルの顔、二コルの顔、ラスティの顔。
そして、家族を奪われたシンの顔。
彼らの顔が、の中でフラッシュバックする。

「奪われたことへの悲しみや憎しみは、どこへやればいいの?!」
の叫びに、キラは悲しそうに目を落とした。
「ごめん・・・・。それは、僕には答えられない。」


「どうしたの?。」
の声にようやく我に返ったシンが駆けつける。
の前に立つキラにちらりと目をやると、キラの背後の石碑がシンの目に飛びこんできた。

「・・・それ、慰霊碑・・ですか?」
「うん。そうみたいだね。・・・ごめん、僕もここ、初めてだから・・・。」

シンの問いに、キラが申し訳なさそうに答えた。
「せっかく綺麗に花が咲いたのに、波をかぶったから枯れちゃうね。」

「ごまかせない。・・・ってことかも。」
シンの瞳の奥に、また怒りが宿る。

シンの目に、ここは綺麗な場所に映らない。
目に浮かぶのは、燃えさかる炎。
吹き飛ばされ、見る影もなくなった家族。

今そこにある風景を振り払うように、シンは顔を振る。
「どんなに綺麗に花が咲いても、人はまた吹き飛ばす・・・・!」

「君・・・?」
「シン!」
突然に暴言を吐いてシンはキラに頭を下げると、くるりと背を向け去っていく。
さっきまで自分も同じように声を荒げていたことも忘れて、はキラを見た。

「ごめん、キラくん。」
初対面でいきなりケンカをふっかけたようなシンの行為を、がキラに詫びる。
キラは目を細めて、シンの後姿を見つめた。

「彼も、傷を抱えているんだね。・・・と同じ?」
「・・・・・。」

は答えることができなかった。
の傷も、シンの傷も、同じようで、違う。

「戦いなんて、傷を増やすだけなのにね。」
キラの言葉が、今度はやけに素直にの心に響いてきた。





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【あとがき】
 どうもちゃん、キラくんとあわない・・・。
 会うとケンカしてます。それもいつもちゃんがきゃんきゃんと。
 こんなところもハイネが妬く原因のひとつかも。
 ケンカするほど仲がいいっていうことかな。