「殺されたから、・・・殺して・・・、か。」
就寝を前にして、昼間アスランから聞いたことをは思い出していた。
大切な人を殺されれば、憎悪を感じるのは当然だろう。
でも、だから戦いが起こる。
今回のユニウスセブン落下事件にしても、その感情が引き金になっていたのだから。
憎しみは簡単に消せるのもでもなく、復讐心はどうしても湧きあがる。
それが人の感情。
どんなにキレイな言葉で打ち消しても、それが湧きあがらない者などいるのだろうか。
〔 オレンジへのあこがれ −運命編・ACT.06− 〕
『忘れろよ。けど、アルが生きてたことは忘れんなよ。』
記憶の中で、憧れ続けるオレンジの髪が言った。
「うわぁー。すっごく身近にいた。」
ハイネはものすごくキレイに置き換えている。
負の感情をどこかにすっかり置いてきて、いつものように笑っている。
戦っている理由も、実に簡潔。
ただ、「軍人だから」というだけ。
「どうしてハイネは、それができるのかな・・・・。」
ハイネだって失ってきたはずなのだ。
大切な人を、何人も。
大切な、と同じ名の想い人を――――。
「さん・・・・。」
『を失った俺は、戦えなくなって』
アカデミー最後の日に、ハイネから聞かされたハイネの過去。
あれからさんについて、ハイネからその想いを聞かされたことはない。
大切な人を奪われているのに、ハイネはナチュラルへの憎しみを表に出さない。
「ハイネ。私が、殺されても・・・・憎しみは感じない・・・・?」
心の中の恋人に、禁句とも言える問いを投げかける。
離れていることで、の心がざわめきを増した。
***
「シン!どうして部屋にいるの?!」
部屋に踏みこむなり、は大声をあげた。
同室者のレイは、ちらりとを見ただけで、またすぐ本に視線を戻した。
当の本人であるシンは、雑誌をベッドの上で開きながら、うるさそうにを見た。
「いいよ、俺は。別に行きたいところなんてないし。」
渋々ながらもシンを私服に着替えさせ、はシンを外に連れ出した。
ミネルバが収容されているドッグを出ても、シンはまだぶつぶつと文句を言っている。
はあえてそれを聞かないことにした。
ミネルバはオーブへ入港した。
船の修理や補給も、代表の計らいで受けられることになっていてすぐには出航できない。
そこで隊員には、オーブへの上陸許可が与えられたのだ。
意気揚揚とルナマリアとメイリンは、朝早くから出かけて行った。
それなのに、元国民だったシンが外出していないと、は聞かされた。
シンの生い立ちから、その様子を心配したグラディス艦長の計らいだった。
シンの性格から素直になりきれないだけ、と判断したは、こうして無理にシンを連れ出したのだった。
最初は抵抗していたシンだったが、やがてあきらめたようにの隣を歩き出した。
「は?ルナたちと買い物とか行かないの?」
「実はちょっと行きたかったんだけどね。」
「え?じゃ何で?」
「ヨウランとヴィーノに2対2で行きたいって頼まれちゃって。」
「えぇっ!?なにそれ!俺聞いてないんだけど!」
二人の姿は、もしハイネが見ていたらやきもちを妬くのに充分なものだっただろう。
人通りの多いショッピング街。
たわいのない会話。
普段モビルスーツに乗って戦闘をしているとは思えないほど、安らいだ姿。
すれ違う誰もが、二人を初々しい恋人と信じて疑わない。
実は二人が軍人だなどと、わかる人のほうが珍しい。
はシンを、一応自分の買い物に付き合わせつつ、次第にその歩幅を狭めた。
並んで歩いていた二人は、夕刻が近づくにつれ、シンの方が一歩先を行くようになっていった。
あたりがオレンジに染まるころ、シンの口は完全に止まった。
は特にそれを気にすることもせずに、ただ後ろを歩いた。
やがてシンは海岸にたどり着き、見晴らしのよい広場に出た。
の目に映るのは、オレンジの夕日。
けれどもシンの目に映るオレンジは、あの日、この場所で見た家族を焼いた炎だった。
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【あとがき】
ハイネのいない間にシンとデートです(笑)
次回、彼と再会。