「あーっ、もうっ!何なのよ、次から次へと!」
「ルナ、落ち着いて。」

開かれている回線から聞こえてくるルナマリアのイライラした声。
は無駄だとわかりながらも声をかけた。
さすがにの機体がとなりに並ぶと、ルナマリアは機体に制動をかけた。

「イライラするのはわかるけど・・・。今はそれが命取りにもなる。」
がそう言うと、さすがのルナマリアも沈黙した。
ついさっき、パイロット仲間のショーンを失ったばかりだ。

戦争中でもないのに。
それも、自分たちザフトの、最新鋭の機体を奪われた挙句に。










〔 オレンジへのあこがれ −運命編・ACT.04− 〕










「まさかあの機体で、仲間が討たれるなんてね。」
・・・。」
奪われた機体は、カオス、ガイア、アビス。
が開発からテストパイロットまで務めた、極秘裏に進められていた機体だった。

の心情を察してルナマリアが声をかけようとするが、なんと言っていいかわからない。
するとすぐに、気持ちを入れ替えたの声がした。
「それより今は、ユニウスセブン。」
ルナマリアはの声にはっとして、目の前で動いている巨大な建造物を見た。



***



破砕作業が目的だったのにもかかわらず、発進直前に一変した状況。
同じコーディネーターによる、意図的に仕組まれたユニウスセブン地球落下のシナリオ。
すでに戦闘状況にあるその場所に、さらに現れた強奪された3機の機体。

2軍のアンノウンを相手に、なおかつ破砕作業を行う。
それは言葉ほどに楽なものでなかった。

命令は破砕作業部隊の支援。
が、シンもルナマリアも強奪機体との交戦に入ってしまう。



「最優先は破砕作業だぞ?!」
「わかってます。でも、撃ってくるんだもの。仕方ないでしょ?」

通信機を通して聞こえてくる会話に、は深いため息を吐き出したくなった。
その感情の激しさから、には端からシンとルナマリアを止めることは無理とわかっていた。
は、いまだに二人の性格を把握していない同期を、哀れにも思った。

ここにいてはいけないはずの、同期。
アレックス・ディノと名を変えた、アスラン・ザラを。


「アスラン。あの二人は止めるだけ無駄だから、レイの方に行こう。」
「・・・なんなんだ、あの二人は。」
いまだ釈然としない思いでつぶやくアスランを、はあいかわらずだと思った。

破砕作業の指揮を執っているのは、これまた同期のイザーク率いるジュール隊。
アスランとイザークとシンが揃うのは、油の中に水を入れて、さらに衣の着いていないエビを投げ入れるようなものだ。
恐ろしくて想像もしたくない。


「手伝います。」
がメテオブレーカーをセットする機体に近づいたとき、アラートが鳴った。
カオスが背後に迫っていたのだ。

パッと身を翻したのは、アスランの方が早かった。
いくらザクがニューミレニアムシリーズとはいえ、カオスと比べれば性能は劣る。
それでもアスランの反応速度は、カオスを超えていた。

ドラグーンシステムを駆使して攻撃をくりだすカオスを、難なく捕まえる。
あっという間にカオスを戦闘不能に追い込むと、アスランが戻ってきた。
「あいかわらず、腕は落ちてないんだね。」
が笑顔で言うと、アスランは反対に顔を曇らせた。

「こんなことばっかり、できたって・・・。」
今までのアスランに、見たこともないほど曇った瞳。
はそんなアスランの様子に、違和感を感じずにいられなかった。



沈黙が二人のコックピットに流れたとき、大地が揺れた。
大きなひとつの大地だったものが、二つの破片に変わってゆく。

「グぅーレイト!割れたぜ。」
なつかしい声が、アスランのコックピットにも届いた。
さっきまでの沈黙を忘れて、がふっと笑みを漏らす。

「・・・・だが、まだまだだ。」
アスランがその声に答えた。
「もっと細かく砕かないと・・・!」

「アスラン?!」
「きっ・・さまぁ・・っ!こんなところで何をやっているッ!」
驚いたように問う声と、いきなり怒り心頭の罵声が重なった。
状況が状況であるのに、はもうおかしくてしかたなかった。

くすくすと笑うの声をキレイに無視して、アスランとイザークの言い争いが続く。
感情の表し方は真逆なのに、気の強いところはあいかわらずそっくりな二人。
アカデミーの頃から変わらない二人の関係は、穏やかな気持ちをにくれた。

も。いつまでも笑ってないで、あの二人止めろよ。」
うんざりしたようなディアッカの声に、ようやくも我に返る。
二つに割れたとはいえ、その脅威がなくなったわけではない。
今も破片の一部は、地球への軌道を変えていない。

「あ、そうだった。ねーぇ?手伝ってー。」
は他のザクからメテオブレーカーを受け取り、アスランとイザークに声をかける。
とたんにの方に意識を戻してきた二人は、あいかわらず言い争いを続けていた。

それでもは、モニター越しに見ていた。
穏やかに笑いをこぼすイザークと、緊張のとれた顔をしたアスランを。





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【あとがき】
 一言二言交わすだけで、当時の自分に帰れる。
 そんな仲間っていいと思う。
 運命のこのシーンで、ライナは終始ニヤけっぱなしでした。