「うわぁ!ちょっと、地球だわー!」
「そう。キレイだね。」
ルナマリアの言葉に答えると、はもう一度青い星を見下ろした。
変わっていない。
あのときと同じように、恐ろしいほどの青。
あの星へ降りる仲間を見送ったときにも、それは感じた。
は瞳を閉じる。
『それじゃあ。行ってきますね。』
見送って、還らなかった大切な仲間が、あの日のまま笑っていた。
〔 オレンジへのあこがれ −運命編・ACT.02− 〕
「レイったら、感動も何もないのかしらねー。もうドッグへ帰っちゃった。」
ルナマリアの声ではっと我に返る。
いけない、今は作業を急がなければ。
は進水式を明日に控えたミネルバにいた。
パイロットたちはその事前準備で、宇宙空間での艦外活動中だった。
「まっ、いっか。シンもまだ感動中みたいだし。」
言われてみればなるほど、シンの機体はピクリとも動かずに地球を見下ろしていた。
「ほらシン。そろそろ帰るわよ。」
姉御肌のルナマリアがそう諭せば、シンは何も言わずに後をついてきた。
地球は、何も変わっていなかった。
それと同じように、ナチュラルとコーディネーターも変わらない。
火種は静かにくすぶり続け、爆発するのは時間の問題だった。
こんなときの戦艦増設がいい証拠だ。
パイロットスーツから軍服に着替えたは、ブリーフィングルームというパイロット専用の待機室へ戻った。
さすがに最新鋭。
パイロットへの優遇も半端じゃない。
「少し遅かったな。シンやルナマリアはともかく、にしてはめずらしい。」
先にあがっていたレイが、入ってきた三人に声をかけた。
「そりゃあだって感動するわよ。地球よ、地球。レイったら本当に無感動なんだから。」
の代わりにルナマリアが答えた。
「任務中だ。何に感動している暇がある。」
が、レイに逆に断言されてしまい、ルナマリアは言葉に詰まった。
「レイ。ちょっとは気を緩めていいんだよ?私もね、地球に見入っちゃったんだ。」
がレイの肩をぽん、と叩いて笑った。
「本当!レイったら一人で戦争してるみたいに真面目なんだから。」
ルナマリアの何気ない言葉に、は思う。
今年アカデミーを卒業したばかりのこの子たちは、戦争を体験していない。
任務中の気の緩みが許されている今を、珍しいことだとも思わない。
アカデミーを出てから入隊して直後参戦していたには、そんな日々すらやっと訪れたというのに。
今が続けばいい。
そう願わずにはいられない。
もう嫌だ。
二コルのように、ラスティのように。
そしてアルのように、目の前で仲間を失うのは。
けれど軍人としてのは思う。
今がとても危ういバランスの上にあることを。
うなされる悪夢を見るたびに、思う。
夢の中で何度もアルが死に、見ていないはずのラスティの死も夢に見る。
見ていないニコルの、血だらけの指を見て悲鳴を上げる。
「忘れろよ。けど、アルのこともニコルもラスティも、忘れんな?」
うなされるたびに抱きしめてくれた恋人は、そう言った。
彼の中でアルは、大切な仲間。
今となってはそれだけだった。
戦争で失ったことも、ナチュラルに殺されたことも、どうでもいいと彼は言った。
「アルは俺の、俺たちの大切な仲間だ。それだけでいいんだよ。」
彼の笑顔が、にはまぶしすぎるほどだった。
「・・・・ハイネ・・・・。」
思わず名前をつぶやいてしまうと、はしまった!と顔をあげた。
案の定、目の前でルナマリアがニヤニヤと笑っていた。
「淋しいなら、通信つないであげよっか?」
うふふん、と笑うルナマリアには真っ赤になって叫んだ。
「そんなことしないでねっ!!」
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