「フリーダムもジャスティスも、残ってないんだよなー。」
「そうだね、せっかくテストパイロットやったのにね。」
「・・・・なあ、また盗まれるってことはないかね?」
「ハイネー。何てこと言うの。」
手元の資料を見たままでが答えると、ハイネもやる気半分くらいでもう一度資料を見た。

ガンダム、と名称をつけられた四つの機体。
まだ紙面上の構成でしかない、ザフトの新型機動兵器だった。










〔 オレンジへのあこがれ −運命編・ACT.01− 〕










ザフト軍と地球軍。
終戦協議が停戦後もめにもめて、ようやく締結したのが三ヶ月前。
けれどナチュラルとコーディネーターの争いがなくなったわけではなかった。
むしろ停戦直後の方が落ち着いていたくらいで、今ではその火種があちこちにある。
ユニウスセブンで終戦協定が締結されたときにも、ブルーコスモスによるテロ行為は行われた。

「新型機に新型の戦艦。・・・あーあ!俺もこっち乗りたかったなぁ、と。」

ハイネの手元には新造戦艦ミネルバのスナップ写真。
停戦後、ホーキンス隊から軍本部に転属となり、だけが数ヵ月後に再度の転属が決まっていた。
新造戦艦、ミネルバへの。


恋人が手元から去ってしまうことに、はもちろん、ハイネも心寂しく感じていた。
少しスネるように言うハイネに、は思わず笑ってしまった。

「ハイネこそ、大出世。」
は数日前から机の上に置かれたままになっているフェイスバッジを指差した。
ハイネはげんなりとした顔で、フェイスバッジを手に取る。
「出世じゃねぇだろ、これは。」

特務隊フェイスに任命されることが、ハイネにはまだ納得できなかった。
ただ『ヤキンでの戦闘を評価する』というのなら、イザークのほうがそれにふさわしいと思っていた。
連合軍の旗艦であるドゥーリットルを撃沈したのも、新型機を二機討ったのも、イザーク・ジュール。
自分は、それに並ぶほどの戦歴はあげていない。

が、今回イザークのフェイス任命は見送られ、ハイネが任命された。
知らなかったとはいえ、前大戦中に民間のシャトルを撃ち落し、軍事法廷にかけられたことが原因だった。


「でもハイネ、似合ってるよ。」
自分のことのようにうれしがるに、ハイネは苦笑いを浮かべる。

は、いいのか?」
しばらくの沈黙の後、ハイネがへ聞いた。
「なにが?」
「除隊するなら、転属になる前の今しかないぞ。」
はハイネの瞳を見た。
「軍にいなくても、できることだってあるんだぜ?」
ハイネが言うと、は顔を少しゆがめた。


「・・・アルが死んだときのこと、私忘れることができない。」
。それもういい加減に・・・。」
「私、ハイネと同じ場所で、できることがしたいの。
 これから何が起こっても、今のザフトなら止めることができるんじゃないかって思う。・・・今度は。」
それはただの儚い幻想かもしれない。
一度間違えたものが、二度間違えないと言い切れるのか?
それでもの中には希望があった。
イザークやディアッカが裁かれたときの、ある一人の男性の言葉に。



     「大人たちの都合で始めた戦争に、若者を送って死なせ、
      そこで誤ったのを罪と言って、今また彼らを処分してしまっては、
      いったい誰がプラントの明日を担うと言うのです?
      辛い経験をした彼らにこそ、私は、平和な未来を築いてもらいたい。」



新しく議員に選出されたばかりで、明らかに不利とされた側に立ち、彼は雄弁に語った。
その言葉の深さに考えを改めた軍上層部において、銃殺刑が決定視されていたディアッカの罪状ですら変わったのだ。
―――かわっていける。
その言葉を聞いたときに、が感じたこと。
彼は間違いを正すことのできる指導者になるだろう。
彼が臆することもなく発言し、また他の議員もそれに賛同した。
体質だけにとらわれない、新しいプラントのかたち。
あの言葉を聞いたから、イザークもディアッカも、ザフトに残ったという。
そして彼、ギルバート・デュランダルは最高評議会議長に就任した。


「私は今も、ハイネを追いかけてる。追いかけながら、できることをやっていきたい。」
はぐっと顔をハイネに近づけた。
「ここには、まだそれがあると思う。」
ラクスと話をしたときのように漠然とした思いだったが、は力強くハイネに語った。

「OKわかった。なら、も早くこれもらえよ?」
ハイネはおどけたようにウインクしながら、フェイスバッジを指差した。
やっと着ける気になったらしい。
あまりにもさまになっているその姿に、はくすくす笑った。

「そんな近くにきたらキスしたくなっちゃうだろ?」
にやりと笑うハイネに、はあわてて身体を引いた。





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【あとがき】
  ハイネさん、セクハラです。