ハイネはゆっくりベッドから身体を起き上がらせた。
傍らではついさっきまで、その腕の中に抱いていたが、スヤスヤと眠っている。
涙が流れたあともそのままに眠る恋人の姿に、ハイネは心の底から安らぎを覚えた。










〔 オレンジへのあこがれ −種編・ACT.9− 〕










告白のあと、やっと心を取り戻したかのようには泣いた。
そしていつしか泣きつかれ、ハイネの腕の中で眠ってしまっていた。

「こんなんばっかだな、俺たちは。」
ハイネは苦笑いを噛みしめながら、をベッドへ横たえた。
少しだけ、と思いつつ添い寝をしたハイネだったが、どうやらそのまま朝まで眠ってしまったらしい。
軍服にも不自然なシワがたくさんついてしまっていた。

「じゃあな、。またあとで。」
の瞳に優しくキスを落とし、幸せを握りしめたまま、ハイネは部屋を後にした。


扉が開いた途端、ハイネは思いもしなかった人物と顔を合わせた。
の部屋からこんな時間に出てきたハイネに、相手の顔もみるみる曇る。

「アルフォード・・・。」
思わず愛称でなく本名で呼んでしまったハイネにも、その動揺が伝わっていた。
ハイネの表情を読みとったアルは、壁に背中をつけてズルズルとしゃがみこむ。

「あーあ。・・・・ちくしょう。やっぱさすが、“ハイネ・ヴェステンフルス”だよなぁ。」
自分のおでこに拳をあてて、アルがつぶやいた。
「俺がここで、どーやって慰めようとかバカみたいに悩んでんのに、お前は・・・。」

その先の言葉を濁し、少し顔を赤らめたアル。
一部、ものすごい誤解をされていることにようやく気づいたハイネはあわてた。
「アルっ!・・・その、な。・・・・手はまだ出してないぞ。」

ハイネの言葉に、アルがジロリと見上げてきた。
ハイネは後ろめたさを感じつつ、顔をそらす。
人差し指で、ポリポリと頬をかいた。

「そりゃぁ・・・・、を好きだとは言ったけどな・・・・。」

ハイネの告白に、アルは一度弾かれたように顔をあげた。
が、すぐに足元に視線を移し、つぶやいた。
「それだけ聞きゃ充分じゃんかよ。・・・・あーあ、チクショー。」

何かを振り切るかのように立ち上がり、アルは歩き出した。
ハイネがそのあとを追う。

「おいアル、お前・・・・。」
「いーんだよ。何も言うな。・・・俺がみじめだ。」
おどけたように顔の前にバツをつくり、アルはそのままボヤいた。
がハイネに惚れてんのは、最初から見ててわかってたし。今さらだ、こんなん。」

気まずくなる空気を振り払うように、アルが言った。
「ちょっと早いけどメシ食いに行こうぜ、ハイネ。」
「・・・あぁ。りょーかい。」
そんなハイネの顔を見て、アルがニッと笑っていた。



それからしばらくの時間が過ぎ、ホーキンス隊の誰もが、仲睦まじい様子のハイネとの姿を見るようになる。
そのほほ笑ましい姿とあたたかい時間に、しばし忘れることができる戦争。
だが、事態は急展開を始める。

連合によるヴィクトリア基地の奪還。
プラントの行く末の全権を握る、パトリック・ザラの息子、特務隊アスラン・ザラの脱走。
同じくしてプラントの平和の象徴とされた、ラクス・クラインの亡命。

何かが狂い始めていた。
やがて戦局を揺さぶる渦は、オーブを崩壊させ、地球から宇宙へと場を移す。
後戻りのできない、ナチュラル対コーディネーターの構図。
そのひずみはもう、決定的なものだった。


「艦をただちにヤキン・ドゥーエ宙域に向かわせる。」
「ヤキンに、ですか?けどあそこにゃ、ボアズが・・・。」
少し青ざめた顔をして告げたホーキンス隊長に、不安な思いを抱きつつ、パイロット3人は顔を見合わせた。

「ボアズは、墜ちた。」
「なっ?!」
ブリッジのモニターに映しだされた映像に、息をのむ。
あまりの遠距離なため、鮮明というよりぼやけている映像。
が、その中にも青白い光を、嫌味なほどに見せつけられる。
はその光に、ヒュッと息が止まった。

「核・・・っ」
の頭の中に、ニュートロンジャマーキャンセラーのデータが流れる。

「議長は、クライン派、それにアスラン・ザラこそがデータの流出者だと特定した。」
たんたんと告げる隊長からは、それを正しいと感じているのか、おかしいと感じているのかも読みとれない。

「・・・・そ、んなこと、アスランがっ・・・するはずないのに・・・・!」
苦しそうにうめいたの肩を、ハイネがそっと抱き寄せた。

ここでそんなことを言っても、どうにもならないと知っている。
隊長のあの態度も、そういうことだろう。
自分がいるのは、ザフトという組織だ。

けれど。
敵はナチュラルだとして、自分たちコーディネーターの存在をかけて戦ってきたこと。
その根本が、揺らぎだしたことを感じずにはいられなかった。





   back / next


【あとがき】
 組織に組み込まれている以上、従わなければならないこと。
 それをホーキンス隊のメンバーは私情と切り離してわかっていた。
 ある意味大人な隊なのでしょうね。