「ハイネ・・・・。あの、ね・・・・。」
何度目かの呼びかけをくり返して、が重い口を開いた。
「何?」
間髪入れずにハイネが、一気に距離を詰めてきた。
〔 オレンジへのあこがれ −種編・ACT.10− 〕
の顔から数センチのところに、ハイネの顔。
は真っ赤になって顔をそらした。
まだまだ子供のの態度に、ハイネがくすりと笑った。
「もうっ!真面目な話なのにっ!」
がふくれると、ハイネはますます楽しそうな顔になる。
「俺はコレで真面目なんだけどなぁ。」
一人ぼやいてみるハイネだった。
「アスランが犯人だって、ハイネも思ってる?」
から問いかけられた言葉に、ハイネはなんとも返さなかった。
かわりに探るような瞳で、を見ている。
「・・・・思ってるわけ、ないよね。なのにどうして、お父さまであるはずの議長が・・・・。」
は唇を噛んだ。
それだけではない。
パトリックはカナーバ議員ら穏健派を、何の反論すら聞かずに拘束してしまった。
その中にはもちろん、の父も含まれている。
何が正しくて、何が間違っているのか。
答えが見えない。
「どっかでザフトはおかしなことになってる。けど、それを指し示すのは俺たちじゃない。」
「・・・そうだね。」
「ニュートロンジャマーキャンセラーのデータ流出にしても、強奪されたフリーダムからって考えた方がしっくりこないか?」
ハイネの言葉に、が「あ」と小さく声をあげた。
それは本当に小さな声だったが、聞き逃すハイネではない。
ついさっきまでの真面目な顔を、ニヤっとした笑い顔に変えて、に詰め寄る。
「なになに?、なんかオモシロイことした?」
ぐぐぐっと近寄ってくるハイネの顔を、恥ずかしさから押し戻す。
「おもしろくない!おもしろくないって!」
当然この反応がわかっていてやっているハイネは、意地悪く笑っている。
は諦めて息を吐き出した。
「あのね、フリーダムにあったニュートロンジャマーキャンセラーのデータに、私ロックかけたの。」
「はァ?」
「あのデータが流出しないように。・・・イザークにはあとで伝えておけばいいかなって。」
こういったデータをいじくるのは、の得意分野だった。
だから、あのロックも容易に解析されないであろう自信はある。
何より、それを開くためのパスワードは、並大抵のハッキング能力があっても難しいはずだ。
「へーえ。やるなぁ、。」
感心したようにハイネに言われるのは、まんざらでもない。
「だけど、それならなおさらわかんないな。・・・まっ、いいさ。とにかく俺たちはプラントを守ろうぜ。」
「うん。」
ハイネがの手をとった。
無重力の中では、引き寄せられるままにハイネに身を預けた。
ハイネの手が、当たり前のようにの頭を撫でた。
以前は子供扱いされているようで嫌だったこの仕草も、今は素直に嬉しいと感じる。
二人のその姿は、まるでデートにでも出かけていくような幸せな姿に見えていいものだった。
直後、艦内にコンディションイエローが告げられる。
二人はそれぞれにモビルスーツに乗り込み、待機する。
デートなどではない、戦場へ駆け出す二人。
それを悲劇的にとらえない明るさを、二人は築いていた。
愛情というより、信頼。
信頼を超えた、絆。
より大きい力が、二人の間でつながれていた。
コックピットで待機するに、オペレーターから送られてくる情報。
両軍ともに総力戦となっている戦局。
今までの小競り合いとは比べ物にならないほど、それは大きなひずみだった。
は緊張の息をひとつ、ゆっくり吐き出した。
「。」
そこへ、タイミングを合わせたかのようにハイネから通信が入る。
鮮やかなオレンジが、夕日のように優しく、を見ていた。
「守るからな?」
「うん。私も。プラントを守る。」
さっきの話の続きだと、当たり前のように答えたに、ハイネがぷっと笑った。
「ちがーう。俺が守るのは、。」
さも当然のように歯が浮いてしまいそうな言葉を投げるハイネに、の顔が赤みがかる。
そのの反応を楽しむかのように、ハイネが笑いながら通信を切った。
「もう・・・ハイネ。こんなときなのに。」
つぶやいては、モニターを優しく撫でた。
こんなときだったからこそ、通信を入れてきたハイネ。
そのおかげで、嫌な緊張感がすっかり消えていたことに、は気づいていなかった。
ビリビリとしびれるような、戦場の雰囲気。
それに捕らわれてしまう者が、命を落とす。
そうして何人ものコーディネーターが死んでいった。
そうして何人ものナチュラルが死んでいった。
コンディションレッド発令とともに、モビルスーツ射出口が開いていく。
そのむこうでは、まぎれもなく命をかけた戦いが続いている。
ハイネとアルの機体が、我先にとそこへ飛び出した。
も、もう何ひとつ迷わない心で、スロットルを踏み込んだ。
「・。いきますっ」
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【あとがき】
このセリフで終わるのは、ある意味お約束でないか、と・・・・。
王道?とか言ってみたり。