・・・・。お前、どうして・・・?」

ラスティが死んだとき、は手に負えないほど傷ついていた。
泣いて泣いて泣いて泣いて・・・・。
どれだけ泣いても、涙は枯れなかった。

やがて自分が同じその戦場で、同じように敵を殺す事実に行き当たり、吐き気が止まらなくなった。
そんなを、ハイネは知っていた。










〔 オレンジへのあこがれ −種編・ACT.8− 〕










アスランが引き続き、アルから機体の説明を受けるために行ってしまうと、ハイネはの腕を掴んで引き寄せた。
哀しみの表情を浮かべて、それでも涙は流さずに、がハイネを見た。

「お前、どうして泣かないんだよ。」
ハイネの言葉に、は怪訝そうに眉をしかめた。
「どうして?」

まさか逆に返されるとは思っていなくて、ハイネは驚く。
はハイネから顔をそらすと、ぽつりと言った。

「泣いたら、ニコルが還ってくるの?」
「そりゃ・・・。けどなぁっ」
「ハイネが泣いたら、さんは還ってきた?」
「おまっ・・・・。」

禁句を口にしながらも、は続けた。
「いるのは、おなじ名前の私。・・・・ほらね、泣いたって還ってこない。」
最後の言葉は、まるで独り言のように響かせて、がふわりとドッグを出て行く。

「慣れるなよ、!」
ハイネの声が、を後ろから追いかけてくる。

人が死ぬことになんて慣れるな。

お前みたいな優しい心の持ち主が、こんなことにだけは慣れるな。

ニコルの死に、からっぽになったの心に、言葉だけでは届かない。
ハイネはのうしろ姿を見送りながら、それを悟った。



「起きてるか?。」
遠慮がちにドアに声をかけると、ほどなくしてドアは開かれた。
開いたドアの前に立っていたのは、感情をどこかに忘れてきたかのような
ニコルの死を聞いてから、が何も食べず、何も飲まずな状態を、ハイネはわかっている。

「ほら、の好きないちごみるくだぜ?」
「・・・・・うん。」
素直にハイネから受け取りはしたものの、飲む気配はない。

フリーダム、ジャスティスともに機体は工廠を離れた。
テストパイロットとしてのハイネたちの役目も、これで終わりだ。

明日からはまた宇宙。
モビルスーツに乗り、敵を殺す。
そのことに、今のが耐えられるとは到底思えなかった。

「ちょっと、いいか?話。」
ハイネの言葉にうなずいたは、部屋のベッドに腰かけた。
ハイネはの前に椅子を引き寄せて、そこに座った。

「覚えてるか?ニコルのコンサート。」
両手で持ったいちこみるくを見ながら、はこくんとうなずく。
だが、反応はそれだけだった。
ハイネはそのまま続けた。

「俺のうた、聴いたよな?」
はまたうなずいた。

忘れることなんて、できるものか。
あの切ないメロディー、切ないうたごえ。
ハイネの何もかもがまだ、全部さんのものだと悟った日。

「あのうた、歌ってほしいが条件があるって、ニコルに言われてたんだよ。」
「条件?」
そこで初めてが顔をあげてハイネを見た。

「そう。歌ってほしいってーのに条件。さすがニコルだろ?」
ハイネの冗談めかした言葉に、やっとがくすりと笑う。
ありし日のニコルを、思い出した証だ。

「あのうたを、・セフィロムのためじゃなく、へ歌うこと。」
「え?」
「それができなきゃ、もう二度と歌わないでください。だと。」

ニコル―――?

の表情が感情を取り戻す。
ハイネはそれを逃さず、のとなりへ席を移した。
の手をとり、の視界をハイネで埋め尽くす。

「そして俺は歌った。―――どういう意味かわかるよな?」
は呆然とした面持ちで首を振った。
言葉通りの意味はわかるが、ハイネの真意はわからない。

「俺はきっとのことは忘れない。それでも新しく人を好きにはなるんだ。俺は生きてるんだから。」

愛した・セフィロムを、戦争で失った。
だけど、アカデミーで出逢ったが、今は愛しい。
夢中で自分を追い、赤を着てくれた、目の前の少女が。

を忘れてからを好きになれと、あいつらには言われそうだけどな。」
の頭の中に、ハイネの言う“あいつら”が浮かぶ。
いつも傍に寄り添い、を守ってくれたみんな。

「でも俺は今ここにいるが好きだ。を守りたい。・・・・それじゃ、ダメか?」



     「だめだだめだ!許すかこの俺がっ!」
     イザークが険しい顔で言う。

     「あっちも好きでこっちも好き?やっぱディアッカ以上っしょ?ソレ。」
     ラスティが楽しげに言う。

     「だあぁぁぁっ!だから、どうして俺が基準なんだよ。」
     ディアッカが頭を抱える。

     「が幸せなら、俺はそれでいいんだが・・・。」
     アスランが心配そうな目で言う。

     「だから、親父くさいですよアスラン。」
     ニコルがさらりと笑顔で言った。
     そしてそのほほ笑みを本物のものに変えて、ニコルが言う。

     「が幸せになることが、僕たちの望みです。」



?」
ハイネが見つめるの瞳から、涙がこぼれた。
やがて、はハイネの軍服にすがりつく。

「ハイネが・・・・っ、・・・好き、です・・・・っ」

彼らに背中を押されたが、ハイネに告げた。





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