核の力を手に入れたフリーダムとジャスティスは、今までとまるで違う機体になっていた。
ハイネも文句のつけどころが見つからないほど、有り余る力。
これが本当に戦場に出るのかと思うと、心がざわめいた。










〔 オレンジへのあこがれ −種編・ACT.7− 〕










「すごいパワー。・・・ジンの5倍・・・ううん、6倍近くある。」
Nジャマーキャンセラーが搭載されてからのフリーダムとジャスティスの調整は、あっという間だった。
その速さは、もともと搭載前提の開発だったのだろうと思わせた。

核動力を再取得することへの後ろめたさが、Nジャマーキャンセラーの搭載をためらわせていたのだろうか。
もコックピットで計器をいじりながら、誰にも気づかれないようにため息をついた。

核の力。
その恐ろしさと残虐性。

撃たれた者たちだからこそ、それを拒否したプラントを、は誇らしく思っていた。
それがあったから、はザフトに志願したのだ。
その放棄した力の代わりに、自分が力になろうと。

の指先は、フリーダムの中に息づくNジャマーキャンセラーのデータを呼び出す。
・・・・これに、イザークが乗るのだ。

「せめて、守ってね。このデータが、他の力に使われないように。・・・お願い、イザーク。」
は呪文のようにつぶやきながら、そのデータにロックをかけた。
平和への祈りを、自分の名前にのせて―――。


「どうした?。元気ないな。」
フリーダムから降りてきたに、ハイネが声をかけた。
は、なんでもないと言って笑った。

――――これは、戦争だから。
甘い考えが通じるほど、生易しいものではないから。

ハイネはそのまま立ち去るに、声をかけることができなかった。
最近、どうにも一線引かれたように思える。
ハイネは参ったというようにあいまいな笑みを浮かべ、頭に手をあてた。

こうなってようやく、ハイネは自分の想いに気づかされた。
を、ちゃんととして心配している自分。
もう一人ののことを忘れたわけではないけれど、同じ名の少女を、同じく愛おしいと想っている自分。

けれど、その軍服に憑りつかれてしまったようなに、それを伝えることはできなかった。
今のには、何を伝えても届かないだろう。

実際、には余裕がなかった。
は本来、誰が誰を好きだとか、恋の話題に事欠かない年齢。
けれどが身を置く戦場では、誰と誰が今日死んだとか、MIAになったという話の方が多く聞く。

大好きな人、ハイネがこれだけ傍にいても、何もできないのは当然なのかもしれない。
自分たちは、軍人なのだから。



工廠のアラートが、スクランブルを知らせる。
今日のテストがすべて終わって、人気はなかったはずのフリーダムのドッグ。
パイロットスーツから軍服に着替え、談をとっていたたちも、スクランブルの発生に慌てて駆けつける。

「うそ・・・・。フリーダムが・・・・。」
はようやくそれを口にすると、あとは手を口に当てたまま、呆然とすることしかできなかった。

ついさっきまで、自分が乗っていたフリーダムが、ない。

「まだよくわかんねーけど、強奪されたって話だ。」
「強奪?!連合に?」
「さぁな。・・・っかし、よっぽどの内通者でもいない限り、不可能だろ?」
ハイネの言葉に、もなるほどとうなずいた。
フリーダムを奪われたことも然り、スパイのことも然り。

「ジャスティスは無事だって話だぜ?アルのところ行くか?」
「うん。」
ハイネの後ろを歩きながら、は振り返った。

フリーダムがあった場所。
そこはもう、フリーダムをつなぎとめていたコードが、無残に散らばるだけの空間だった。
「あなたは・・・だれ?」
はそのまま上部のハッチへ目をやると、問いかけた。

答えは、何も返ってこなかった。


ジャスティスのドッグへくると、やはりこちらも慌ただしかった。
アルはジャスティスの上半身に当たる部分に架けられたブリッジの上にいた。

「あっ」
アルのとなりで揺れる藍色の髪に懐かしさを覚えて、は地面を蹴った。
「アスラン!」
相手が振り返るのも待たずに、はアスランの身体に飛びついた。
?!どうしてこんなところに?」

地球と宇宙。
離れて久しかった、仲間との再会だった。
「よう。久しぶりだな。」
「ハイネ!」
ハイネもアスランに近寄ると、手をたたいて再会を喜んだ。

だが、その喜びも長くは続かなかった。
やがて耳に入ってきたのは、オペレーションスピットブレイク失敗という事実。
そして――――。

「ニコルが、死んだよ。」

アスランの口から、仲間の死が語られた。
「俺をかばって討たれたんだ。奪取し損ねた、地球軍のモビルスーツに。」

それだけを告げると、アスランは苦々しく口を閉ざした。
足元がすくわれていくような感覚で、はそこに立っていた。

死んだ、と言われても信じられない。
誰よりもに近い存在だったニコルが、死んでしまっていたなんて。
今だって昨日のことのように思い出せる。

アカデミーで、毎日ニコルと一緒にいたこと。
たわいない会話に、笑いあっていたこと。

思い出してしまって、の身体から力が抜けた。
掴んでいたブリッジの柵から手を離すと、身体が無重力に流されていく。

。」
ハイネが流れていくの手をとった。
てっきり泣いているのだろうと思っていたハイネは、の顔を見て驚いた。

は、ひとすじの涙も流していなかった。





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【あとがき】
 ディアッカMIAはスルーです・・・。