ホーキンス隊のパイロットに、期間限定で転属命令が出たのは、それから間もなくのことだった。

「少しは気が楽だろ?」
アルがの顔色を気にしながら言った。










〔 オレンジへのあこがれ −種編・ACT.6− 〕











その任務内容は、新型モビルスーツのテストパイロット。
医務室での治療を続けながらも、は戦闘配備がかかると出撃をしていた。
その身を案じたホーキンス隊長の計らいかもしれない、とアルとハイネは言っていた。
普段は寡黙だが、基本的に個々に判断を任せてくれもする、部下思いの隊長なのだ。

オペレーションスピットブレイクは秒読み段階に入り、おそらくは作戦後の最新鋭機投入で圧倒的戦力差を示そうというのだろう。
短期間でのテストとなるため、パイロットに課せられる条件は過酷だ。
だがそれでも、今の条件よりはマシだろう。
の精神状態も、戦艦の中にいるよりはよくなると思われた。

も、その意味を深く考えずに、その状況に甘えてみようと思ってうなずいた。
直接自分が手を下すわけでなくとも、その兵器の完成によってまた、たくさんの命が失われるのだろうかとは、考えても仕方のないことだったから。



アプリリウスの軍事工廠に着く頃には、静養と点滴での体力も回復に向かっていた。
くり返されるテスト内容にも、的確に問題点を指摘した。
その指摘に技術者たちは、嫌な顔ひとつ見せなかった。
それは、物づくりに対する執念だろう。

「銃を構えるスピードが、あとコンマ2秒早ければイイナァ。」
「それって、ビームサーベルと持ち換えるときですか?」
「そ。もそう思ったろ?」
ハイネの意地悪そうな質問の受け渡しに、はあいまいにほほ笑んで見せた。

となりで頭を抱えている技術者に、は同情を覚える。
とにかくハイネの指摘は操縦者目線だ。
その改良で日常の整備に浪費が増すことはお構いなし。
今のことだってスペック上は可能だが、それだけで整備の精密度は二割り増しになる。
板ばさみの技術者にとっては、ツライ選択なのだ。

「なぁ、頼んだぜ?」
ハイネに肩をポーンとたたかれると、技術者は苦笑いを浮かべながらも、そうするしかなかった。

「そっちはどうだ?アル?」
ハイネは別のドッグにいるアルへ、通信機越しに呼びかけた。

テストする最新鋭機は二機。
うち一体をフリーダムという。
メインテストパイロットは、が務めた。

そしてもう一体がジャスティス。
こちらのメインパイロットはアルだ。
ハイネはこの二機を総合的に判断する、オールラウンダー的役割だった。

重力のかからないドッグの中で、はコックピットからふわり、と抜け出した。
地球軍から奪取したという機体の性能を取り込み、さらにザフトの技術を介入させた機体。

それにしては、物足りない。
アルもハイネもも、これが正直な感想だった。

「何か隠されてる気がするんだよね、俺。」
今日の一連のテストを終え、三人だけとなった場でアルが言った。

「そりゃ、あんなもんじゃないよな。普通。」
ハイネもわけあり顔でうなずく。

「でも、もう最終段階でしょ?」
「そう。だからおかしんだよな。」
意図的に伏せられているような、秘密。
最新鋭にしては、物足りないパワー。
実力の伴なうパイロットだからこそ、感じる疑問だった。

「まぁ、俺たちは与えられたことをやるだけだけどな。」
ハイネの言葉で、その場は一応切り上げた。
ところが翌日、事態は急変したのだった。



「おいおいおい。なんだよコレ。」
アルがフリーダムの足元に散乱するコードに仰天した。
「はあん。やっぱり、な。」
ハイネが物を指し示すマークをさすりながら、二人にウインクして見せた。

「――――核。」
が呆然とつぶやいた。

フリーダムのみならず、ジャスティスへも新しいパーツが整備されていく。
昨日まではその兆候すらなかったのに。

「核なんか載せても使えないだろ?」
アルが技術者の一人をつかまえて聞くと、相手は晴れ晴れとした顔で言った。
「この機体に、Nジャマーキャンセラーが載せられたんですよ。」

忙しそうに、それでも生き生きと働く技術者と対極に、テストパイロットの三人はその場に釘付けとなった。
「そんなのって・・・・。プラントは、核を永遠に放棄するって・・・・。」
「そうだな。」

核動力がもたらす恩恵は、無限供給されるパワー。
パワーの落ちない機体は、無限に敵をなぎ払う。

ここで機体を造っているだけの者に、この気持ちはわからないだろう。
この機体が、いったいどれだけの命を奪うのか。
そんなことは、考えもしないのだ。きっと。

はフリーダムの足元へ、そっと近づいた。
パーツに手を触れ、見上げる。
翼を持った天使のような機体は、整然とそびえ立っている。

「ねえ、フリーダム?あなたは、戦場で何人の人を殺すの・・・・?」

の言葉に、ハイネとアルはハッとして顔を見合わせた。
このフリーダムの正式なパイロットは、イザーク・ジュールだと聞いている。
そして、ジャスティスの正式なパイロットは、アスラン・ザラだと。

二人は、ともにのアカデミー時代の同期で、大切な仲間だ。
の複雑な心を理解して、アルもハイネも口をふさいだ。





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【あとがき】
 パイロットとして、ちゃんは優しすぎるのだと思います。
 だんだんとハイネとアルがただのいいお兄さんになっていく・・・。
 アルはまだしも、ハイネはヤバイ。
 本当に『あこがれ』で終わってしまったらどうしようと、最近本気で悩んでいます。