が配属されたホーキンス隊は、月軌道に配備されていた。
目下、プラントの不安要素は食料物資の不足問題にあり、
物資輸送の中継点では、地球軍との小競り合いが多々あった。

けれど、迎撃するのは主にハイネとアルで、は輸送班の護衛任務を任されることがほとんどだった。
出撃は何度もしていたが、が敵機を撃墜したことは、まだ一度もなかった。










〔 オレンジへのあこがれ −種編・ACT.3− 〕










「私、こんなまんまでいいのかなぁ・・・。ハイネとアルに甘えてるみたい。」
帰投し、スポーツドリンクを一口飲みながら、が2人に行った。
ハイネとアルはの言葉に顔を見合わせると、ふぅとため息をついた。

「ラッキーが続いてるだけだよ、。」
「そう。俺らが抜かれたら最後に守りきんなきゃなんないのは、なんだぜ?」
「そうだけど・・・・。」

には2人が敵に抜かれることなんて、ありえないと思えた。
アルもハイネも赤なのだ。
軍にいる期間もより長く、経験だけはどうやっても追いつかない。

「いずれ、イヤでも討つことになるんだ。」
アルは手に持っていた紙コップをぐしゃりと握りつぶすと、をなだめるように頭の上に手を置いた。
そしてそのままいなくなる。

「討たなくてすむなら、そのほうがいいんだぜ?」
ハイネが言うと、はうなずきながらもうつむいた。
それでも納得できないのは、赤のプライドなのだろう。

「お前はまだ、何も失ってないもんな。」
ハイネはそう言い残し、席を立った。
も渋々席を立つ。
となりに並ぶと、ハイネの掌がの頭をくしゃり、となでた。

の力はわかってるよ。だから最後の壁なんだから。」
うつむくに笑顔で言葉を投げかけ、ハイネは去っていく。
は自分の頭に手をあてた。
「・・・・・子ども扱いしないでよ。」


毎日顔を合わせているのに、ハイネの近くにこうしてきたのに。
ちっとも縮まらない距離が、にはもどかしかった。

部屋に戻ってパソコンを立ちあげる。
メールボックスを確認すると、一通だけメールが届いていた。
いつも五通、別々に毎日届いていたのに・・・・。

どれもたわいのない内容だったが、それらは毎日の楽しみだった。
一通しかメールがきていないことに淋しさを覚えつつ、はそれを開いた。

唯一の送信者は、イザークだった。
文書の画面が開き、の目に飛びこんできた、たった一行の文字。
の手がカタカタと震えた。

「そんな・・・・。」

真っ白い画面に、黒く塗りつぶされたかのような、一行の文字。
目でそれを読みとっても、理解できない。

「『ラスティが死んだ』・・・・・?・・・・死んだっ・・・・て、・・・何?」



?・・・ー?」
夕食の時間がとうに過ぎても食堂に現れないのところへ、食事のプレートを持ったアルとハイネがやってきた。
何かあったとき、フォローはまず同じパイロットでおこなうのが基本だ。

ドアを叩いてもいっこうに反応しない中の様子に、2人は顔を見合わせた。
ハイネは肩をすくめて見せると、ドアのロックを解除した。

「あ?何してるんだ?」
また寝てしまっているのかと思っていたハイネは、予想に反してが部屋の中に立っていることに驚いた。
通信機の前に立ち、操作ボタンを叩きつけているの後姿が、そこにあった。

「そんな叩いてたら壊れるぞ?・・・・おい。」
アルが机の上にプレートを乗せながら言うが、から返事が戻ってこない。
ハイネが近寄り、と目を合わせようと顔をのぞきこむ。

の顔から読みとれたのは、怒り。
けれど、その瞳から涙がとめどなくあふれている。

「・・・・ないの・・・・・。」

涙でくぐもった声が、ポツリと聞こえた。
と思ったら、せきを切ったようにの叫び声が続いた。

「つながらないの!ヴェサリウスにも、ガモフにも!」
アルとハイネは、訳がわからないという顔でを見た。
確か今の2つの艦には、聞き覚えがある。
の同期で、仲間だというヤツらの乗っている艦だ。

「えーっと・・・。確か今、L3あたりにいるって言ってたよな?」
アルが記憶の中から、おぼろげにの言葉を探る。
怒りを瞳に溜めたまま、がうなずく。

の迫力に押されながらも、ハイネが言う。
「あー・・・。それじゃリアルタイム回線は、ちょっと遠い・・・・な。」
「なんでっ?!」
がハイネに飛びつき、その胸を拳でドンっと叩いた。

「あぁ・・・。そういうこと。」
机の上にプレートを置いたアルが、開きっぱなしになっているパソコンに目を通してうなずいた。
を受けとめていたハイネは、顔をあげてアルを見る。
アルは、感情を何も感じさせない声で言った。

「『ラスティが死んだ』・・・ってさ。」
アルの言葉で、ハイネの真下にいるが大声をあげた。
きつく握り締めたハイネの軍服とぬくもりが、の哀しみを受けとめていた。





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【あとがき】
 アスランはキラのことで手一杯。
 ニコルやディアッカは、に伝える言葉がない。
 イザークがこういうとき、一番割り切って(いい意味で)教えてくれそうだなぁって。