新しい墓に名が記され、はね除けたくなるほどの静けさに満たされたその、場所。
アルフォード・マイル。
二人のよく知る名の記された墓標も、今はそこにあった。










〔 オレンジへのあこがれ −種編・ACT.15− 〕










連合軍との終戦協議がかろうじて進む中、ハイネとはそろってここを訪れていた。
プラントに戻り、出撃することのない日常。

けれど心がざわめく。
停戦してから命を散らしたアル。
大切な人を失くしたあの記憶が消えない。

なぜ?
どうしてあの瞬間に、アルが死ななければいけなかったのか。


「ハイネ。アルは・・・どうして笑ったのかなぁ。死ぬときにまでアル、いつもと同じに笑ったの。」
姿はアルの墓標に向かいながら、がハイネに問う。
ハイネは顔を背けた。

覚悟を決めたアルの、最期の笑顔。
おそらく、を守った満足感はあったのだろう。
だが、それだけで自分が死ぬことを納得できるだろうか。
ハイネには、に言えないアルの想いがあった。

「好きな女を守ったから、アルは幸せだった。」とは、言えなかった。
アルがしまいこんだ想いを、自分が伝えていいものだとは思わない。
それも、の想い人である自分が。



沈黙が流れ、やがてハイネが近づいてくる足音に振り返った。
カサカサと草を踏みしめ、近づいてくる二人の姿。
フードを目深にかぶり、忍ぶようにやってくる一人の顔を盗み見て、ハイネは思わず声を上げかけ飲み込んだ。
その人物はハイネに、にこりと笑みを返し、のとなりに自然と立ち並んだ。

「お久しぶりですわ、。」
声をかけられて初めて、はハイネ以外に人がいたことに気づく。
相手がゆっくりフードを上げると、彼女の特徴的とも言えるピンクの長い髪が、ふわりと揺れた。
付き添っていた栗色の髪の少年が、あきらめたように空を仰いだ。

「ラクス・・・。ど、して・・・?」
は意外すぎる人物に驚きを隠せない。

それもそのはずだった。
ラクスたち第三勢力は、確かに戦争を停止に導いた英雄行為をした。
が、その力によってザフトが被害を受けたのも事実。
ザフト最後の要塞ヤキン・ドゥーエは、彼女たちによって滅されたのだ。

プラントでは立場上、裁くことも讃えることもできなかったため、彼女たちは生きることを黙認されていた。
そうして、フリーダムとジャスティスの圧倒的な力とラクス・クラインは、伝説的存在となった。
カナーバ臨時最高議長の計らいがあったとはいえ、今この混乱の中でその姿をプラントで示すことはタブーだ。


そんな不安定な存在が、の目の前でほほ笑んでいる。
「父に、会いに来ました。」
ほほ笑みながらも、悲しそうな目でラクスが言った。
「・・・そっか。」
答えてはまた、アルの墓標に目を向けた。

「仲のよろしかったお方ですか?」
聞きながらラクスも同じように、アルの墓標の前で胸元に手を合わせた。

「同じ隊の、先輩。・・・私をかばって死んだの。」
「やーめーろ。・・そうやって言うのは。」
ハイネが後ろから声をかけたが、は振り向かない。

ハイネは肩をすくませて、ラクスに付き添ってきていた少年を見た。
彼も、同調するように笑った。

「ザフトが停戦を申し入れて、戦闘行為が中断されたそのときに、アルは死んだの。」
「・・・そうですか。」
可愛らしい顔に痛みを浮かべて、ラクスが答えた。
の目から、また涙がこぼれた。

「終わったのに。もう、戦わなくてよかったのに!どうしてアルが・・・っ」
哀しいだけでない、アルを失った悔しさや、虚しさの涙。
「無駄死にだよ、こんなの!」
感情のままに理性なくが叫んだ。

「守られたキミに否定されたら、それこそ無駄死にだよ。」
それまで一言もしゃべらずにいた栗色の髪の少年が、初めて口を開いた。
「キラ!」

には厳しい言葉だと思ったのだろう。
ラクスがとがめるように彼の名を呼んだ。
当のキラはそれを気にもせず、話を続けた。

「ほかの誰でもない、何でもない。彼はキミを守りたかったんだよ。それがすべてだったんだ。」
キラの言葉に、ハイネは和らいでいく自分の気持ちを認めていた。
自分では伝えられなかった言葉が、に届けられたことに。

「あなたに・・・アルの何がわかるの?!」
が、の反応は違った。
まったく見知らぬキラに告げられたことが、逆にの感情をあおったのだ。

激しく言葉を投げられたキラだったが、予想に反して彼は笑った。
「わかるよ。だって、僕もそうだった。」
その穏やかな笑顔に反して、の身体がゾクリと震えた。

「僕は、フリーダムのパイロットだ。」





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【あとがき】
キラの笑顔は黒オーラむんむん。