「あなたは、だれ?」
あの日、フリーダムが飛び去った宇宙へ向けて問いかけた言葉。
その答えが今、目の前に―――・・・。
〔 オレンジへのあこがれ −種編・ACT.16− 〕
ハイネが軍服に手をかけた。
気づいたラクスがそれを制した。
とたんにハイネはなんでもないという顔を作り、なにも持たない手を広げて見せた。
ラクスはその仕草に、にこりと笑った。
こんな二人のやりとりに気づかないほど、は衝撃を受けていた。
「あなた、が・・・?」
震える声でが問えば、キラは笑顔のままでうなずいた。
とっさに銃を探ったハイネとは対照的に、は動くことができない。
思い出すのは、フリーダムが奪取された直後、無残に漂うばかりだったコードの群れ。
その後慌しく父が拘束され、混乱の中にラクスが強奪の手引きをしたことを知った。
ラクスの父、シーゲル・クラインが死んだことを知ったのは戦後。
フリーダムからNジャマーキャンセラーのデータ流失はないと信じていたたちは、アスランのことも信じていた。
クライン派こそが犯人とするザラ議長の言葉を、鵜呑みにはしなかった。
それが正しかったのか確かめるすべはなかったが、イザークやプラントに戻ってきたディアッカは、
「正しい答えなんて、人それぞれだ」と言った。
漠然としたイメージしかなかった、フリーダムのパイロット。
その相手が、今、目の前にいる。
と年の変わらない、優しげな少年。
彼が、フリーダムのパイロット・・・・?
「ねぇ、キミは・?」
続けられた言葉に、の唇が震えた。
――――― ナゼ、カレガ ―――――?
ラクスを見れば困ったようで、けれど彼を止める様子はない。
「あのデータは、の名前に守られていたよ。だから僕も、あれを絶対に守ろうって決めたんだ。
プラントにも、想いが同じ人がいる。その気持ちを受け取った僕は、の想いも守りたかったんだ。
だから彼の気持ちもわかるんだ。を同じように守りたいと思った僕だから。」
意外だった。
彼はのロックを完全に解析していた。
なのに、敵ともいえる彼は、自分と同じ考えだった。
いまさらながらに自覚する、銃を向けた相手にも、人格があったということ。
目の前でほほ笑むキラに、は何を告げるべきなのか、わからないでいた。
「ちょーっと待った!おい、お前。」
「え?あ、はい。」
突然の前に出てきたハイネの勢いに、キラが押され気味に返事をした。
「お前、名前は?」
人差し指でキラの鼻を軽く押しながら、ハイネが聞く。
「え・・・。え・・・と、キラ・ヤマト、です。」
戸惑いながらも名乗ったキラに対して、ハイネは威圧するように腕を組む。
「の彼氏は俺なんだよ。目の前で口説くな。」
「え、あ・・・。そんなつもりは・・・!」
あからさまにうろたえるキラに、ラクスがくすくすと笑う。
その様子は、さっきまでの何かを悟ったようなキラとは別人のようだった。
「あらあら、残念でしたわね。」
「ラクス!」
キラはあわてて止めに入るが、ラクスはまったく気にしない。
「わたくし、守る会の方々がいまだにお許しにならないと思っていましたわ。遅かったようですわね、キラ?」
「そんなっ、僕は!」
さっきまではキザなセリフをさらりと言っていたはずのキラが、真っ赤になって否定する。
はもう訳がわからなくなり、目の前に赤い軍服をひっぱりよせた。
「おっと。」
よろけるようにハイネが振り向く。
「なに?・・・あ、まさか。あいつの方がいいとか言うなよ?」
「言うわけないじゃないっ!」
こんなときにでも余裕しゃくしゃくで話をするハイネに、はムキになって答える。
その様子はさっきまでのとは比べ物にならない。
ハイネのたった一言で、すっかり元の通り、素の表情を見せる。
そんなに、ラクスは最上の笑顔を見せた。
「安心いたしましたわ、。」
そしてラクスは幼子が遊びに誘うかのように、の両手を取った。
「お優しいが軍に入られてから、わたくしずっと心配でしたの。でも、彼がいらっしゃるのなら大丈夫ですわね。」
「ラクス・・・。」
「世界は平和になりましたわ。・・・いえ、今だけは、平和なのかもしれません。」
今だけは、平和。
その言葉が、やけにの頭の中に響いた。
「どうすれば人は共に歩むことができるのか、わたくし達もその道を探している途中です。
わたくしは・・・、今はまだプラントへは戻れません。それでも、目指す未来は同じですわよね?」
握られているラクスの手を、は握り返した。
「うん。そう思うよ、ラクス。」
目指す先にあるもの。
明確な答えなんてなくても、それは同じなのだと感じる。
軍に属する自分ができること。
それは限られているのかもしれないけれど、属する者だからこそ、できることがあると信じたい。
に対する笑みをハイネへと向け、ラクスは聞いた。
「オレンジのナイトさん?お名前を教えていただけますか?」
「ハイネ・ヴェステンフルス。の心ごと全部、俺が守りますよ。ラクス様?」
にやっと笑いながら、ハイネが答えた。
そしてキラに宣告する。
「キラ。早くプラントを出ろ。じゃなきゃ、俺がキラを討つことにもなるぜ?」
「・・・わかりました。」
真剣な顔でキラはうなずき、最後にを見た。
「それじゃあ、。に会えてよかった。」
はあいまいな笑顔でキラに手を振った。
「あのヤロウ、最後までを口説いていきやがった。」
軽い嫉妬心からか、ハイネはの肩を抱いて引き寄せた。
珍しいハイネのその態度に、ようやくが穏やかに笑った。
back / next
【あとがき】
前回から一転してキラは真っ白です。
スーパーコーディネーターは、名前だけでちゃんに惚れた模様。(笑)