『―――それに伴ない、プラント臨時最高評議会は、
 現宙域におけるすべての戦闘行為の停止を、地球軍に申し入れます。』

響き渡るカナーバ議員の声に、歓喜の声があがっているのだろう。
安堵のため息をついた者がいるのだろう。

ならばなぜ今、こんなことになる―――?










〔 オレンジへのあこがれ −種編・ACT.14− 〕











「出て来い!アル?!」
「アルッ!」
ハイネが、が、アルの機体を引き寄せる。
が、モニターの中でアルはただ笑うだけだった。

「だめ・・・だ。ポンプの・・・摩擦熱で・・・やられてる。・・・・システムが正常に動かない。」
「じゃあ待ってろ!俺の機体でこじ開けてやる!!アルの機体支えてろ!!」
「はい!」
ハイネがモビルスーツの力をもって、コックピットをこじ開けようとする。
その瞬間、アルがものすごい形相で叫び返した。
「やめろハイネ!火花が散れば、それだけで吹っ飛ぶぞ!」

ハイネの手がその言葉に止まる。
が、すぐにムキになって言い返した。
「そんなことっ、やってみなきゃわっかんねーだろうがっ!」
「ダメだハイネ!まで巻きこむ!」

アルの言葉で、ハイネは完全に手を止めた。
「なにしてるの?!ハイネ早く!!」
がモニターごしに叫んだ。

「こんなの嫌!あきらめるなんてハイネらしくないよ!」
覚悟を決めたの目に、ハイネはうなずいた。

「・・・やめろ。・・・ハイネやめろォっ!」
アルのバーニアが火を噴いた。
その突然の加速に、の機体は振り払われる。

「アルっ!!」
遠ざかっていく機体に、ノイズが混じりだすモニターに、は懸命に呼びかける。
「アル!アル!」
「アル!!」

ハイネが同じくバーニアをふかし、追いすがる。
アルの顔にノイズが重なる。
「・・・・アル・・・・っ!!」
は計器を叩きつけた。

「・・・・・。・・・・笑え・・・・・な・・・・?」
ノイズの中でアルが言う。
死を覚悟した者の笑みを、は初めて見た。

「アルっ!・・・・アルっ!!」
はコックピットから立ち上がり、モニターに拳を打ちつける。


――――いやだ!死なないで!!
なぜ?
もう戦いは終ったのに・・・・?!

「いやだぁっ!!アルーーーーっっ!」

ハイネのバーニアの光のその先で、小さな炎がはじけた。
それが、アルの命をも散らしたことをは知る。
通信していたはずのモニターにはただ、うるさいばかりのホワイトノイズ。
見えなくなったアルの顔を求めて、は目を開く。

どんなに目を凝らしても、アルの機体は見えない。
モニターにはいつまでもホワイトノイズがざわめいていた。

「ア・・・・ル・・・・。」
は目を伏せて通信を切った。
その目から、涙がとめどなく流れていく。


配属されてからずっと、まるで兄のように傍にいてくれた。
アルとハイネとで、話せないことなんて何もなかった。
弱いばかりの自分に、心の強さをくれた。

そのアルが、死んだ。
戦争が終わった、まさにそのときに。

「私を・・・かばったから・・・っ」
はまた手元を拳でたたきつけた。
何に怒りをぶつけたらいいのか、まるでわからない。

戦争は終わった。
なのに・・・なのに・・・・。

?」
いたわるように優しく、ハイネの声が聞こえた。
は泣きじゃくり、顔をあげることが出来なかった。

初めて目の当たりにする、身近な者の死。
それを今このときに経験するなんて、なんという皮肉だろう。

「―――戦争は終わった。・・・帰るぜ?」
「ハイネ?!」
哀しみを感じさせないハイネの声に、は反感を持って顔をあげた。
が、ハイネの顔を見たとたんに、ハッと息をのむ。

声色とは裏腹に、ハイネの目には涙があふれていた。
それを気にすることもせずに、ハイネはを見ていたのだ。

「ハイネ・・・・。」
悲しくないはずがない。
アルを失って、悲しくないはずがない。

ハイネの機体に手を引かれ、は帰投する。
耳には、ハイネのあの歌が聞こえてきた気がした。

『痕跡の歌』
それはまるで、レクイエムのようにの心に染み渡る。




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【あとがき】
すいません、アル死亡は予定通り。
ちゃんの戦いを運命につなげていくための死です。