甲高い警告音がして、ヤキンからレーザー通信が届く。
「ジェネシス・・・?!」
「全軍、射線上から退避だと?」
ハイネとアルの言葉も、驚愕の念を含んでいる。
戸惑いながらも機体を射線上から退ける。
かつて自分たちが手にしていた見慣れた2機だけが、なおもそこに滞空していた。
〔 オレンジへのあこがれ −種編・ACT.12− 〕
「さがれ!ジャスティス、フリーダム!ジェネシスが撃たれるッ!」
イザークの声に瞬時に反応した2機は、すばやい動きで射線上から逃れた。
間をあけず、巨大な光の渦が宙間を駆け抜けていく。
その光の渦は、そこに今あったはずのモビルスーツ、戦艦、すべてを巻き込み消えていった。
「あ・・・・。あぁ・・・・あ・・・。」
光が消え去ったあとの光景に、は言葉を失った。
あったはずのものは、何ひとつ残っていなかった。
敵の姿は、すべて消え失せていたのだ。
「こんな・・・・っ」
の声がうわずっていた。
それは、まぎれもない怒りだった。
それも、自分が所属するZAFTへの。
ジェネシスは、核ミサイルをも上回る大量殺戮兵器だ。
あれを使うことは、何をイミする?
自問自答をくり返すの元には、ふたたびヤキンからの通信文が届いている。
『連合の残党を排除ののち、帰投せよ。』
けれど、そんな命令に従うほどは愚かではない。
力を失った敵を討つなんて、虐殺と同じだ。
そんなことは戦闘じゃない。
ただの殺人だ。
動かなかったのはだけではなかった。
同じ通信文を受け取っているはずのアルもハイネも、当然のように動かなかった。
「帰ろーぜ、ハイネ。・・・?」
「そうだな。大丈夫か?。」
は答えない。
自分だけが大丈夫でも、世界がもう、大丈夫ではない。
それがわかってしまったから。
ロッカールームで、ハイネはヘルメットを投げ捨てた。
アルも無言でソファに座りこんでいる。
は自分のロッカーにもたれかかり、ずるずるとそこへしゃがみこんだ。
「ほら、?」
ハイネがに手を差し伸べる。
はそれに対してふるふると首を振った。
まだ、立ち上がれる気分ではなかった。
ハイネはしょーがない、と肩をすくめると、そのままを抱き上げた。
「へっ?!」
「そんなトコに座ってると、冷えるぞ。女のコは冷やしちゃいけないぜ?」
楽しげに言ってをソファに降ろす。
アルはそれを横目で見ながら、ため息を吐き出した。
憮然として立ち上がり、モニターをいじくる。
地球軍艦隊に動きはない。
「ヤツラ、まだやる気か?」
いつのまにかアルのとなりにハイネが立っていた。
「今のところ、動きはないな。」
言いながらアルは「見せつけるな」と言わんばかりに、ハイネの腹筋をぽすんとたたいた。
ハイネが面白そうに応戦した。
ぽすんぽすん、という音と「にしし」と笑いあう声。
やがてアルのほうが先に根をあげた。
「やってらんねーな。俺、自分の機体見てくるな?」
アルが立ち去ってしまうと、奇妙な沈黙が部屋の中に流れた。
「・・・・ねぇ、ハイネ?核兵器って・・・、ジェネシスって、なんなのかな?」
の言葉に、ハイネは穏やかなほほ笑みを浮かべた。
「コーディネーターって、なに?ナチュラルって、なに?・・・私たち、何が違うの?」
ハイネはの問いに答えず、の前にしゃがみこんだ。
「・・・・・気にすんな。」
ハイネの言葉は、が予想していたものとまったく違っていた。
「これは戦争なんだ。どっちも正しいし、どっちも間違ってる。その中で、自分の信じるものだけを忘れずにいろよ。」
は、驚いた顔でハイネを見ている。
「真実なんてもの、見つけられっこないんだよ。最初っから。」
ハイネの言葉に失望感を抱きながらも、はどこかそれを納得して受けとめていた。
戦争に真実などない。
軍人として正しくない答えが、人間として正しく聞こえる。
それは、葛藤を繰り返しながらも敵を討ってきた者たちだからこその想い。
の顔つきに迷いが消えたことを見てとったハイネが、また穏やかに笑う。
「の心も、俺が守ってやる。それが俺の真実だぜ?」
ハイネの言葉にが笑う。
なにかから開放されたように、それはの心からの笑顔だった。
「ハイネを、信じる。・・・それが、私の真実かな?」
やがて、けたたましくアラートが鳴る。
それまでジェネシスを攻撃目標としていた連合軍が、その残ったすべての勢力をプラント本土へ向けたのだ。
そのアラートが鳴る中で、ロッカールームにいたハイネとは、お互いの身体を抱きしめ合っていた。
くちびるが重なっている間は、二人はただの恋人同士だった。
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