「ホーキンス隊、ハイネ・ヴェステンフルスだ。」
整列したパイロットコース生にむかって、ハイネは自己紹介をした。
コース生たちは、羨望のまなざしでハイネを見ていた。

その名前は、アカデミー生の間ではすでに伝説。
しかも同じパイロットを希望する者なら、あこがれて当然。

のとなりにずらっと並ぶ、5人を除いては。










〔 オレンジへのあこがれ -ACT.3− 〕










一通りの挨拶が終わると、生徒たちはそれぞれに訓練を開始した。
ハイネは一人一人のフォームを見ながら、思い当たった点をアドバイスしている。

のところにやってきたハイネは、の身長にあわせるように背をかがめた。
の顔のすぐ横に、ハイネの顔がある。

「いいね。でも、ちょっと銃が右に傾いてるな。」
「あ、ハイ。」
ハイネに言われたとおり、わずかに銃口を修正して、撃つ。
弾は的の中心に吸い込まれていった。
ハイネがにっこり笑う。

「そうだ。忘れんなよ?」
「いい加減にして顔をから離せ!」

じゃきんっ、と弾を銃にセットする音を響かせて、イザークがハイネにそれを向けていた。
「ちょっ?! 何してんのよ、イザーク!」
あわてて止めに入るだったが、ハイネはあっけらかんとして言った。
「妬いてんなよ。お前にも指導してやるから。」

そっちに妬いているんじゃないだろ?!(ですよ?!)
イザークを含む誰もが、心の中でほえていた。
ハイネは面白そうに笑いながら、イザークのとなりに立つ。

「いいねぇ、お前。ウデも悪くないな。」
「当たり前だ!」
暴言を吐き続けるイザークにも、ハイネはたいして気にしない。

「だけど撃つのが早すぎだな。弾がセットされる前に撃つなよ。」
「ぶっ・・・・くくくっ」
イザークの性格そのままの指摘に、ディアッカがたまらず吹き出した。
「こンのぉ・・・笑うな、ディアッカ!!」
じゃきんっ、とまた音をさせて、今度はその銃口がディアッカにむけられた。
たまらず逃げ出すディアッカ。

「さて。あんな愚息どもはほっといて、今度は僕を指導してください?」
ニコルが両手で銃を抱きしめながら、にっこりと言った。
「あ―――・・・お前、ね? 大丈夫。お前ならその気配で敵を殺せるよ。」
「そうですか。僕もそう思っていました。」

びゅおおぉぉぉっ・・・と、ブリザードのように風が吹いた。
アスランは相変わらずきちんと訓練をこなしながらため息をついた。
ラスティもそれを横目で見ながら、楽しくなるであろうこれからの一ヶ月を思い描いていた。



「ふう。・・・やっぱりアカデミーは特別だな。」
嵐のような一日を終えて、ハイネは当時の自分の部屋にいた。
この部屋すら用意してくれた軍に、ハイネは感謝していた。

「俺たちにも、あったんだよな。・・・あんな頃がさ。」
ハイネはベッドに腰かけて、自分の両手をじっと見つめた。

ここでは、的しか撃っていなかった当時のハイネの手。
それが今は、たくさんの人間の血に染まっている。
ブルッと身震いをして、ハイネはそのままベッドへ身体を預けた。

1カ月の、特別講師。
それがどんな理由でおこなわれているのか、あの底抜けに明るい研修生たちに知らされてはいない。

何をするでもなく横になっていたハイネの部屋に、遠慮がちにノックの音がした。
「ハイネ先輩、いらっしゃいますか? です。」
まだ幼いその声に、笑い出したくなるのをガマンしながらドアを開く。
のうしろにはいかにも不機嫌そうな赤い制服の男どもが、ずらっと勢ぞろいしていた。
その光景を見て、ハイネにはまた笑いがこみ上げてきた。

「よろしかったら、夕食をご一緒しませんか?」
迷惑でなければ・・・と不安げな瞳を向けてくるに、ハイネは笑顔で答えた。
「1ヶ月間、よろしくな?」

それは、1ヶ月毎日一緒に夕食を食べようという、約束の言葉で。
はこれ以上なく嬉しそうに、ばあっと笑顔になった。

「ありゃりゃ。ディアッカ以上だねぇ?」
「ラスティ。俺は何の基準だよ。」
のあんな顔が見れて、俺はそれで満足だけどな。」
「アスラン? 親父臭いですよ。」
「くっそぉ・・・。のお願いでなければ、誰がキサマなんかと・・・っ」

うしろで思い思いの会話を続ける男たちに、ハイネだけが気づいては気づかない。
「いいね、お前ら。気に入った。」
ハイネは今日一日で、ここに戻ってこれた自分に感謝していた。



「しょーぶだ! 勝負だ勝負だ勝負だ、ハイネぇっ!」
「どっからでもこいよ、イザーク。」

ハイネが来てから半月。
イザークが勝負を吹っかける相手が、すっかりアスランからハイネに替わっていた。
16歳。
まだまだ成長途中のイザークの身体は、体術においてハイネにかなう、はずもなく。

「おっしゃあ! まだまだ負けねーぜ?」
イザークはまたもやハイネに吹っ飛ばされていた。
「はいはいはーい! 次は僕ぅ!」
ラスティが無邪気に、ハイネに駆け寄っていく。

「くっそおぉぉぉっっ、アスラぁン! 俺と勝負だ!」
「・・・・ホコ先は俺なんだよな、結局。」
そう言ってまたもやため息をつくアスランに、ニコルが言った。
「あんまり気にしないほうが、アスランの前髪のためですよ。」
「うわぁ! ニコルっ」

唯一ニコルを止められるが、袖をひっぱって阻止しようとしたが、時すでに遅し。
ちびっこの言葉に精神的ダメージを100ポイント受けたアスランは、猛突進してきたイザークに難なく吹き飛ばされた。
「さすがに同情するぜ、アスラン。」
吹っ飛んでいくアスランに手を合わせながら、ディアッカがつぶやいた。

武道場には、同じようにただ、能力を競い合う研修生たちの声が響いていた。





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