アカデミーに入学して、早くも半年がたとうとしていた。
初めの頃はおぼつかなかった訓練も、今では全員がそつなくこなせるようになっていた。

そんなとき、パイロットコース生を揺るがす話題がふって湧いた。
あのハイネ・ヴェステンフルスが、特別講師としてやってくる、というのだ。









〔 オレンジへのあこがれ -ACT.2− 〕










「来週から1ヶ月かあー。楽しみだなー。どんな人なんだろー?」
入学したときから、ありとあらゆるところで目にしたその名前。
しばらくは表だって言うこともなかっただが、その名前は常に気になっていた。

おそらく、今回のことを一番楽しみにしているのはだろう。
メールを何度も何度も確認するに、守る会のメンバーたちは気が気でない。


「ハイネ・ヴェステンフルス。・・・・18歳ですか・・・。」
ニコルが資料に目を通しながら、冷ややかに言った。

「あーんまりいじめちゃダメよ? ニコルー?」
と同じくらい天使のような風貌のニコルが、実体は悪魔だと知るラスティが言う。
「そんなコト言って、ラスティこそいじめんなよ。」
ディアッカが言うのも聞かずに、その横でイザークが拳を握り締める。

「勝負だ! 証明してやるさ。俺のほうが上だとな!」
「がんばれよ、イザーク。」
あきれたようにアスランが言った。
実はその期間は自分がイザークのしつこい勝負を受けずにすみそうだと、少しホッとしていたりする。

「楽しみだナー。」
だけがひとり、殺伐とした空気を読みとらぬまま、外を眺めて笑っていた。



その日は、朝から全員気合いが入っていた。
かのハイネ・ヴェステンフルスが、今日から特別講師としてやってくる。

くしくもその日のカリキュラムは射撃。
イザークは闘争心をメラメラと燃やしていた。

「俺がかならず勝ぁーつ!」
「・・・・教わる気はねぇなぁ、イザーク。」
どこかはき違えてハイネを待ち受けるイザークに、ディアッカはあきれて物が言えない。

「そういえば、遅いですね。」
いつもならとっくに合流して射撃場に来ている時間なのに、ニコルたちはまだを見つけられないままだった。

「そんじゃ、ちょっと探しにイク?」
ラスティが外を指さして笑った。
「俺がいく。」
アスランはすっかりの保護者気取りで、射撃場の外へ出て行こうとした。

「あれ?」

そこで初めて遠くの方から歩いてくると、赤い軍服を着たオレンジの頭の男が目に入ってきた。
楽しげにその男に話しかけながら、歩いてくる
そのとなりで優しげにを見つめながら、その話を聞いている男。

「「「「「 ?! 」」」」」
守る会のメンバーに、危機感がつのる。


「おはようございます、。」
それでも平静を装いながら、黒いオーラを潜ませてニコルが声をかける。
ようやくもニコルたちに気づいて、顔をこちらにむけた。

「おはよう! ニコル。」
頬を少し赤く上気させて、が答えた。
それがのとなりに立つ男のせいだと、気づかない彼らではない。

「はぁーん、お前が例の“ラスティ”だな?」
ニコルたちが話し出すより早く、軍服の男が先に口をひらいた。
突然名前を呼ばれたラスティは、目を白黒させている。

「はい、そうです。ごめんなさい、ハイネ先輩。」
の口から飛び出した名前に、彼らは今度こそ驚きを隠せなかった。



さかのぼること数分前。
は足早に射撃場を目指していた。

今日からあの、ハイネ・ヴェステンフルスがやってくる。
そう思うと夜も寝付けず、朝は朝で身支度に手間どった。
アカデミーの制服で、おしゃれも何もないが、髪だけはハネていないかどうか念入りにチェックした。

朝食の前の早朝訓練は、それだけに時間も短い。
遅刻も当然、命取り。

は髪型を気にしつつも、なるべく早く歩いていた。
すると、目の前をオレンジの髪がのんびり歩いている。

「あれ? ラスティだ。」
めずらしくまわりに他の仲間の姿がないなと思いつつも、はラスティにうしろから抱きついた。

「おっはよー、ラスティ!・・・あれ?」
抱きついた瞬間に、違和感。

頬に当たる相手の服は、制服よりも硬かった。
加えて、ラスティよりもはるかにガッチリした身体つき。
ぎょっとして振り返りを見つめるその人は、ラスティと別人だった。

「あ・・・ああああっっ! ごめんなさいっっ!」
はあわてて頭を下げた。
よく見ればその人は、同じ赤でも軍服を着ている。
たち研修生とは違い、正規の軍人だった。

「いや、いいよ。ずいぶんと熱烈な歓迎だなぁって、嬉しくなっただけだから。」
その声の甘さと彼の表情に、は自分が引き込まれていくのを感じた。

「ところで、キミ―――・・・。」
です!」
「そう、ちゃんね? ラスティってのは、キミのカレシ?」

名前を呼ばれて顔が赤くなることを感じつつ、は首をふる。
「仲間です。大切な。」
答えを聞いて、目の前の人がふわりと笑った。

は、まだ名前も聞かないうちに、この人が誰だかわかってしまった。
そう、彼が―――、きっと・・・・・。

「ハイネ・ヴェステンフルスだ。俺の名前、今度は間違えんなよ?」
そう言われて頭の上に乗せられた手のぬくもりに、の鼓動が早まった。





   back / next