2016.03.20.
       「ユーミンの罪」酒井順子(講談社現代新書)。たとえそれがどんなに残酷な現実であろうとも、日常の出来事の中から美だけを切り取る才能。画家とか写真家の眼。恋愛観の「助手席性」:いつも主導するのは男性であり、そのような格好良い男性を持つことを求める心性。恵まれた家庭に育ち、都会の最先端文化に触れて、才能を思う存分伸ばすことの出来た少女時代。中学高校時代の教会のオルガン音楽。どんな事をしても男を捕まえる、という在り様を無様なものとして軽蔑した。ユーミンはリアリズムの対極にあった。最初の2つのLP「ひこうき雲」と「MISSLIM」は殆どが中学高校時代の曲である。当時はまるで異国の音楽と感じられたくらい新しかったらしい。

      「連れてって」という感性。「Surf & Snow」 は本物のサーファーやスキーヤーでは書けない。それらに憧れを持っただけだったから書けたし、だからヒットした。80年代、憧れが本物よりも勢いを持ち、大衆の願望が輝いていた。映画「私をスキーに連れてって」('87)。就職したばかりで忙しい僕は、当時のスキーブーム、サーフィンブームを不思議に思って眺めていたのだが、こういう背景があったのである。

       FMチューピーでは7時から8時までミュージック・セレクションという番組で1人のミュージシャンの曲ばかりをかけている。火曜日はユーミンである。先週は「ひこうき雲」と「MISSLIM」だった。僕がユーミンを好きになった理由は、ユーミンの歌に見られたの少女的な純真さだろうと思う。また、強がりながらも男によりかかろうとする可愛さである。僕は男兄弟だけで育ったから女性に対して不思議さと憧れを抱くのである。まあ、僕もまたバブルの恋愛妄想を抱いていたということである。

      ユーミンがバブルに浮かれていたという風に言われると、確かにそうではあるが、そんなことはあまり気にならない。今聴くと「子供っぽいなあ」という感じもする。ただ、音楽的には依然として魅力的である。夢を与えてくれるユーミンに対して中島みゆきはリアリズムで迫ってくるから、女として見た場合ちょっと怖いけれども、彼女の歌う人間観の正統性と力強さには惹かれるものがある。

  <目次へ>      <一つ前へ>    <次へ>