2019.02.24
青柳いずみこ『高橋悠治という怪物』(河出書房新社)を読んでいる。良く調べているけれども殆どが記録を追う感じで、あまり面白くは無いが、もっといろんな CD を聞いてみたくはなった。彼の変わったピアノスタイルを説明していて、なるほどとは思う。指の爪が大きくて普通に華麗に弾くと爪が鍵盤に当たって、ある演奏会では演奏中に爪が剥がれて飛んだ、ということから、指の腹で弾くように変えたということで、独特のモタッとした感じは多分その辺から来る。もう一つはレガートでもペダルを使わないで鍵盤を押した続けている、ということもある。

・・僕より10歳上の世代である。クセナキスの弟子になり、現代音楽のピアニストとして大活躍していた頃、僕は高校生位だったので聞いていない。彼にしか弾けない難曲というのがあって、重宝されていたという事なのだが、そもそも作曲家であるし、そんなピアニストで終わるつもりもなく、日本に帰ってきてからいろいろなことをやっている。演奏へのアプローチも、西欧の伝統に沿った曲の構造からであったのが、ピアノの音色からという風に変った。これは、三味線を習得したのが切っ掛けだったらしい。大げさなダイナミズムを避けて、微妙に音をずらしたりすることで、楽曲の意味を探るということである。まあ、確かにそんな感じがする。音が微妙に不揃いなので、そこだけ聞くとアマチュアのような演奏。ジャズでいうとセロニアス・モンクの感じ。実際、アマチュアのように弾くことの難しさを自ら語っている。僕が最初に惹かれたのはそういう風になった彼の、バッハやシューマンの演奏であった。それ以来何回かコンサートを聞いている。時折聞く彼の作曲もピリリとした辛子のような味わいがあって、お洒落である。評論も面白い。

・・思想的には、育った家庭からして左翼である。採りあげる曲もそういう傾向があり、アジアの民衆音楽を目指し、素人を集めて結成した水牛楽団というのもそうであった。帰国してからは武満徹の世話になっていたのだが、彼が政治に関心を持たないということを批判したために、別れてしまったらしい。しかし、政治的な左翼というよりも、文化的な左翼で、反啓蒙主義とでも言うべきかもしれない。
 
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