2014.09.07

      今日は午後から2人で西区民会館に出かけて、ピアノトリオのコンサートを聴いてきた。広島出身の音楽家ということで、ヴァイオリンの正戸里佳、ピアノの仲道祐子、作曲家として渡邊祟であるが、それだけではと考えたのか長谷川陽子が加わった。いつも一緒にやっている仲道祐子に誘われたのであろう。残念ながら観客は少なく、150名位であったが、なかなか良かった。

      最初にヴァイオリンとピアノで、バッハの「G線上のアリア」とモーツァルトの「ヴァイオリンソナタヘ長調KV376」が演奏されたが、あまりパッとしなかった。正戸さんはパリで学んでいて、何でもフランコベルギー派というのだそうであるが、軽やかで豊かな音色が特徴だそうである。確かに軽やかではあるが、その分音に芯が無いと感じる。千住真理子とは正反対の音である。

      次の曲は長谷川陽子が加わってドヴォルザークのピアノトリオ4番ホ短調「ドゥムキー」であった。初めて聞く曲であるが、なかなか変化に富んでいて面白かった。最初に長谷川陽子の出した音で目が醒めた感じである。これが本物の楽音なのだ、という感じだろうか。久しぶりである。後は彼女がぐいぐいと引っ張って行った。まるで先生と生徒の演奏みたいだった。長谷川陽子の音がどうしてこんなに魅力的なのだろうか?まずはどんな音でも丁寧に弦を共鳴させていることと、その上で自由自在に音色や音量をコントロールしてアンサンブルに仕上げているところであろうか?細面の優しい顔をしていながら筋肉隆々で、まるでチェロに寄生してそれを弾く機械という印象も受ける。フルーティストだって、身体全体がフイゴみたいに動くのであって、それと同様であるが。

      第2部は小品集で、チェロとピアノで「浜辺の歌」とパガニーニの「モーゼ幻想曲」である。前者は3コーラスを変奏することもなく演奏して音色で聴衆を惹きつけたが、後者はまあ超絶技巧を見せたといったところである。左の指が飛び跳ねるように動いていて家内はすっかり感心していた。その後はヴァイオリンとチェロでバッハの「インヴェンション(1,4,8,13,15番)」である。ますます先生と生徒という感じになった。2人の表現力の差はいかんともしがたい。

      次にピアノ独奏でショパンの「幻想即興曲嬰ハ短調」(昔、隣の家のお嬢さんがよく弾いていた)とグリークの叙情小曲集より「春に寄す」とラヴェルの「クープランの墓」。演奏はイマイチ。音の整理が足りない感じである。技術的にどう言ったらいいのかわからないが、折角の音が沢山ありすぎて濁る。

      最後の渡邊氏の作曲でヒロシマ音楽プロジェクト70(被爆70周年)委嘱作で、「奏でる」と名づけたもの。この人は普段ドラマなどの音楽を作曲していて、なかなかセンスが良い。ピアノのスタッカートの動きとヴァイオリンとチェロの軽やかなメロディーがうまく絡まっていて気持ちのよい曲に仕上がっていた。

      第3部がブラームスのピアノトリオ1番ロ長調である。変音記号が一杯付いた調である。初めて聴く曲だったが、ブラームスにしては判りやすくてよかった。どうもテーマが暗いのだが、その展開たるやなかなか凝っていて、しかもその懲り方がよく判ったので楽しめたという次第である。この辺になると正戸さんもすっかりよくなっていて、この曲に随分集中して練習したんだろうなあ、と思った。複雑な曲だったので、もう一回聴いてみたい気がする。

      アンコールはシューベルトの「アヴェマリア」とブラームスのトリオソナタ3番から第3楽章であった。これもなかなか良かった。外に出るとサイン会ということであったが、何しろ列が少ないので、ちょっと協力して長谷川陽子の新作CD「シャコンヌ」を一枚買って、家内が長谷川陽子と仲道祐子にサインをしてもらった。ということで久しぶりのコンサートを楽しんで、家内はとても機嫌が良かった。ところで「シャコンヌ」であるが、バッハのシャコンヌをそのままチェロで弾いている。随分力の入った演奏で、長谷川陽子の優しい見掛けとは違ったシリアスな側面に触れたような気がする。独身を貫いてチェロを生涯の伴侶としている、というのも判るような気がした。

<目次へ>  <一つ前へ>  <次へ>