昨夜はかなり雨が降ったが、今日は朝から晴れている。大分前に予約してあった「アメリカが日本にひた隠す日米同盟の真実」(青春出版社)という本を先日借りてきたので、読み始めた。作者はベンジャミン・フルフォードというジャーナリストである。随分センセーショナルなタイトルなので、元のタイトルを知りたいと思ったが、この翻訳には記述がない。注も引用もない。インターネットで調べてもなかなか原著が見つからない。そこでやっと気づいた。この人は日本語ができるのだ。自分で書いている。中身はまあ、アジテーションという感じである。

      最初の方でスノーデンの暴露した米国諜報組織の話が出てくる。インターネット回線のほとんどが米国を経由していて、アメリカは従来から行ってきた各種の諜報活動に加えて、これらインターネットを流れる情報を集積して解析している、ということである。大手のネット企業がそれに協力している。冷戦終結後の世界を支配してきたのはアメリカを主体とするドル石油体制を担う石油資本であった。彼らは株主として世界の主要500社を支配しており、その利権を守るために、これまでエネルギーの新技術を妨害してきたし、中東での戦争を仕組んできた。要約すると、石油、戦争、情報、という3つの基本戦略を駆使して権益を守ってきた。アメリカにおける2次産業の衰退をイギリスと結託して金融資本主義で覆い隠してきたものの、リーマンショック以降その限界が見え始めている。戦争戦略もイラクへの侵攻の失敗により、国際的に信用を失っている。情報支配については、既に中国やロシアではインターネットを国内で統制しているが、ブラジルを中心とするBRICSネットワークが計画されている。これはスノーデン事件に端を発するもので、アメリカを外した新たな光回線をBRICSとアフリカ諸国の間で作ろうというものである。

      国家としてのアメリカは世界支配の戦略から縮小の方向に舵を切っており、ヨーロッパへの影響力を減少させてアジアに注力し始めている。石油戦略の要であるサウジアラビアはアメリカの支配力の低下を見て複雑な動きを始めている。そもそもイスラム過激派のテロ組織はサウジアラビアの資金援助で成り立っていて、それはロシアの支配を切り崩すために使われてきた。ロシアはヨーロッパにパイプライン輸送で天然ガスを輸出しており、とりわけドイツがそれに依存している。シリアのアサド政権は親ロシアであり、サウジアラビアにとってはヨーロッパに天然ガスを売るためのパイプラインを敷くためには邪魔な存在である。ロシアのアサド政権援助に対して、サウジアラビアは冬季オリンピックでのテロを遠回しに示唆した。しかし、結局ロシアの上手い介入によって、アメリカが当初化学兵器使用のあらぬ疑いをかけたアサド政権への直接戦争は回避され、ロシアへのテロも回避された。(その後、サウジアラビアへの報復攻撃を準備していたロシアは自信をつけてクリミア半島を編入した。また他方イスラムテロ集団の一部は暴走してイスラム国を作ってしまった。)アメリカの縮小戦略により、ヨーロッパ大陸の大国ドイツはロシアとの結合を強くし、イギリスはEUから離れ、大西洋を挟んだアングロサクソン系の国とより強く結びついて、石油と金融による支配体制を守ろうとしている。取り残されたのはフランスである。

      石油資本が支配している2次産業の衰退を補うものが金融取引である。金融工学によって生み出された金融派生商品の利潤はそれに関わった少数の人達に分配され、貧富の格差を生み出していく。それには実体が無い為に、いつか誰かがその莫大な負債を背負うという運命にある。そして、その時に負債を背負うのは米国政府ということである。つまり、それを最終的に担保するのは米国債である。そしてブッシュ政権の戦争費用と共にその金融産業の支援のために税金が使われ、米国債が大量に発行され、ここのところアメリカ政府は毎年のように債務危機に陥っている。安倍政権は2013年1月にその米国債を50兆円購入して支えたのだが、結局その直後アメリカ政府はデフォルト状態に陥った。今日、米国債を積極的に支えているのは何といっても中国である。国際的な通貨がドルで有り続ける限りは中国は米国債を買い支えるだろう。アメリカと中国が断絶すれば、中国はドル資産を失い、アメリカはドルの信用を失う。いずれにしても国際的な経済の全面的な破綻となる。だから、中国と日本の戦争は米国にとっても中国にとっても悪夢である。日本にはまだ「ゆうちょ」と「かんぽ」の300兆円があるが、いずれこれもアメリカに差し出すかもしれない。そうなるとドルを延命させつつ(そのためにこそ)円の破綻が先に起こるだろう。TPP の少なくとも米国側の狙いはそこにある。

      第3章は軍産複合体の戦略の話である。アフガニスタンではブッシュ政権がかって自分が育てたタリバンを武力で抑え込んで、アフガニスタンにおけるパイプラインとアメリカ向けヘロイン生産の確保を図ってきた(ということであるが、何の根拠も書いてないから、これは多分著者の他の本に書いてあるのだろう。)。しかし、アメリカにその余裕がなくなり、最近ではタリバンと交渉している。いずれアフガニスタンはタリバンに渡すことになるだろう。イランとも長年敵対してきたが、譲歩せざるを得なくなってきている。このような事態に対処する軍産複合体の目論見(戦術立て直し)は情報収集能力の向上に依拠した無人攻撃機の拡充である。ノースロップ・グラマン社が開発している。その技術は当然ながら中国にも売られている。

      無人攻撃機の技術を支えているのは人工知能である。人工知能は軍事だけではなく、諜報活動や金融取引においても急速な発展を遂げている。金融情報をある程度加工して計算機に与えると計算機が自動的に売り買いを判断する。現在の欧米での金融取引の80%は既に人工知能が行っている。人工知能同士の戦いによって、市場が予測を大きく超えた動き(特に急落)をする。また機械のトラブルは破滅的な損失を齎す。人工知能が人間を超える特異点は1945年頃と言われている。それまでに人類は人工知能をどう使うべきかという共通倫理を確立しなくてはならない。

      第4章はまず量的緩和(QE)の話から始まる。連邦通貨準備理事会(FRB)はドルを印刷して国債を買い支えていて、それは中国の寄与を超えている。現在のQE3は大統領選挙を支えるために開始され、無期限である。毎月米国債を450億ドル、住宅不良債権を400億ドル買い続けることで、債券市場の破綻を防いでいる。QE3をいつ止めるかというのは市場にとって最大の関心事である。その判断基準としてFRBが挙げているのが失業率であるが、これは公然と粉飾されている。長期失業者を非労働力とみなして統計から外しているのである。表向きの失業率は7%台であるが、実質的には15〜20%くらいである。実際に総人口あたりの就業者割合は失業率の回復にも関わらず減少し続けている。警察による治安維持や郵便などの公的サービスも日々低下し続けている。FRBのバランスシート(赤字)はリーマンショック時の2兆ドルから2013年には4兆ドルに増加している。(2014年現在QE3を終息させる、という発表があり、ドルがアメリカに還流して一時的にドル高になっている。)ヨーロッパ圏では財政が健全なのはドイツとロシアである。フランスは現在危機的な状況にある。

      アメリカにおける貧富格差はかなり際どい水準に達している。リーマンショック時貧民救済のフードスタンプ対象者は300万人であったが、2013年には500万人に増加している。内乱に備えて、2012年から国土安全保障省(DHS)は16億発の弾丸と7000丁の銃と2700台の装甲車を導入した。一般市民の武装も進行している。

      この章の最後で、どうやら著者の基軸信念というべき、「闇の権力者」の実体が簡単に説明されている。起源はヨーロッパの王侯貴族と二つの大戦を利用して富を築いた人達である。彼らはエリート教育を受けて閉鎖的なサークルを作っている。一例としてスカル・アンド・ボーンズは1832年にイェール大学で始まり、アヘンと麻薬の密輸で財を成し、20世紀に入って、ブッシュ家、ロックフェラー家、タフト家、ホイットニー家、ハリマン家、フィルズベリー家、ケロッグ家、グッドイアー家、パーキンズ家、ウェイアーハウザー家といった名門が名を連ねる。彼らは財団を作り、多くの人材をその影響下に育ててきたし、一方で慈善団体としても有名である。

      第5章はまず日中問題である。最近の中国はアメリカの出方を探るために日本を刺激しているように思われる。尖閣諸島の問題や防空識別圏の問題等であるが、アメリカは日本政府の期待を裏切って弱腰の対応を示している。つまり、中国が金貸し(米国債購入)を止めてしまう事を恐れている。著者によると尖閣列島に上陸して問題を引き起こした香港のグループは愛国団体ではなくて、「闇の権力者」の資金援助を受けているということである。同様に日韓も中越も対立を誘導して双方に武器を売りつつ支配する、というのはアングロサクソン系支配者の昔からの植民地政策である。

      日本銀行は民間の株式会社である。株主比率は政府が55%で個人が39%である。この個人は明らかにされていないが、著者は直接取材でロックフェラー家やロスチャイルド家が含まれていることを見出したということである。1/3以上株を持つと拒否権が行使できるから、結局日銀には「闇の権力者」の意向が直接反映されていることになる。その日銀がお金を刷って国債を買い、そのお金は米国債を買うことに使われていて、その米国債が「闇の権力者」の投機の尻拭いに使われる、ということである。利子は「闇の権力者」に分配される。かってカナダはこのような国富を食い物にする植民地支配を覆す為に、民間中央銀行を国営化することで国家の独立を守った。国営化することで、政府は自由にお金を刷ることが出来る。こうしてカナダは福祉国家を実現した。勿論それには節度が必要であるが、日本も学ぶべきであろう。日本はアメリカだけを利するTPPには加盟せず、既にあるASEAN+3の地域経済ブロックを守るべきである。TPPに加盟すれば、訴訟が日本国内では済まずにTPPのシステムに組み込まれるから、その背後に居るアメリカの巨大企業と「闇の権力者」に思うがままに日本の富を吸い尽くされるだけである。

      とまあ、こんな感じの事が書かれている。ある意味で大変判りやすい話で、大筋は合っているのだろうが、国家にせよ社会にせよ首尾一貫した人格を持つわけではないことには注意を払う必要があるだろう。歴史の解釈における「闇の支配者」という想定はよく行われる単純化である。物理における単純化されたモデルと同じで、辻褄が合っていれば一応実験で確かめる段階に入る。現在正に進行中の世界政治においては政治運動ということになるだろうが、その為には「闇の支配者」に匹敵し得る主体が必要となる。本書を始めとする著者の出版物はそのための情宣活動の一環であろう。

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