2016.02.19

Pieter Wispelwey というチェリストの録音したバッハの無伴奏チェロ組曲のCDが届いた。大分前になるが、FMで聴いて新たなアプローチだなあ、と感心したので、どうしても聴いてみたくなったのである。50歳にして、これが3回目の録音だそうである。今回はバロックチェロで、ピッチがバロックで一般的な A4=415Hz よりも 更に低く A4=392Hz である。これは当時のケーテンの宮廷でそうだったらしい。現在でいうと G4 である。低いと弦の張りが緩くなって、それなりに味わいが出るということらしい。確かに音は柔らかい。

解釈であるが、特徴としては、それぞれの曲、つまり6曲の序曲、30曲の舞曲それぞれがバッハの実験的な作品である、という見方に立っている。時代的にそうあるべきとされているテンポやリズムや雰囲気を敢えて一度壊した上で、それぞれに異なったバッハの意図を再現しようと試みている。だから、組曲としての一貫性というよりも、曲が移り変わる度に新たな世界が開けてくる、という感じである。

特徴を要約することが出来ない。万華鏡のようである。けれども、1,2,3番までに比べて、4,5,6番の方が明らかに冒険的であり、とりわけ最後の6番は何やら天空の彼方に想いを馳せるような不思議な音楽になっていて、一番の聴き処ではないか、と思う。ここでは、チェロで使われる、C2、G2、D3、A3 に加えて、5番目の E4 の弦が追加されていて、それが極めて効果的である。

新たな解釈にあたって、研究者らしい Laurence Dreyfus、John Butt と相談したそうで、彼らとの対話やオックスフォードでの演奏会場の様子がDVDに収められているが、何しろ英語なのでよく判らない。ただ、DVDで見ると、Wispelweyさんは早口で落ち着きのない感じで、演奏の奥深さとの間にギャップを感じる。

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