2018.11.09

  僕はシューベルトの歌曲はあまり聴いたことがない。ドイツ語は判らないし、何とも精妙な感じがするけれども、眠くなるだけである。語学的にはともかく、文学的、音楽的感性が足りないのであろう。けれども梅津時比古の『冬の旅〜24の象徴の森へ』(東京図書)は結構楽しめた。つまりは、曲を聴くよりも解説の方が面白いということである。それほどまでに梅津氏の学識と感性は鋭くて、僕にはとても付いていけそうにもないが、まあそれに沿って聴いてみようかという気になってきた。全体的な流れで言うと、詩を書いたミュラーと作曲したシューベルトの生きた時代は、ナポレオンの革命騒ぎが終息した後の反動の時代のオーストリアであって、言論統制が厳しかったらしい。表向きは失恋の歌なのだが、意味合いとしてはもっと深刻である。社会から排斥された主人公のその絶望はどんどん深くなっていって、ニヒリズムに至るのだが、最後の方では、<この地上に神がいないなら、我々自身が神(複数形)になろう!>と来て、最後の最後で、同じように社会から排斥された辻音楽師に初めて自分の存在と交感してくれそうな<他者>を見出す。そんなところは、中島みゆきの歌とも共通性があるように思われて実に興味深い。
 
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