2012.08.13

     伊吹山ハイキングに行く時にバスの中で読み始めた村山斉の「宇宙は何でできているのか」(幻冬舎新書)を読み終えた。素粒子論の現状(統一モデル)をコンパクトに纏めてあるし、判りやすいといえば判りやすいが、これ以上突っ込むと大変な勉強が必要になるだろう。統一モデルに至る道筋は面白く語られている。加速器実験が始まった頃には新種の粒子が大量に出てきて、外部から見ていると素粒子論もお終いだなあと思ったものだが、それらが測定精度の観点から整理されて、新しい枠組みが出来ていったのである。僕がカナダに居た時はクォークが提唱されて間もない頃で、レスブリッジの田舎大学で眠っていた素粒子屋さんに訊くと、あんなものは実証しようのない単なる空想だよ、と言われたのを覚えている。確かに電荷が1/3なんてあまりにも奇妙であるし、辻褄あわせの理屈には違いないのである。しかし、こういう理屈で現象が予言され、それが精密に検証されるところが物理の醍醐味なのである。南部さんの貢献が結構大きかったのだなあと思った。そもそもの基礎は場の量子論にある。これがまた感覚的にはなかなか理解しづらいものである。粒子と波とはエネルギーの2側面に過ぎず、まずは場として記述しておいてそれを量子化することで統一的な立場から計算できるのである。粒子はエネルギーの一形態としての存在であるが、それは2種に分れていて、一つはフェルミオン(同じ状態を重なって占有できない)である。これは空間的な広がりを持つ存在を保障する。もう一つがボソンであって、これは同じ状態を重なって占有できるから空間的に他を排除して存在することはなく、粒子同士を結びつける場を形成する。電磁場はフォトン(光子)であり、核子を結びつける強い力の場はグルーオン、中性子崩壊などを起こす弱い力の場はWボソン、Zボソンである。ここまでは良いが、重力場(グラビトン)についてはまだ統一的に説明されていない。質量(加速し難さ)を与えるヒッグズ粒子がどうやら見つかったようなので、統一理論は一応の完成と考えられる。しかし、10年位前から天体観測技術の進展によって、統一モデルの範囲で語られてきた宇宙の起源と未来が観測結果を説明できなくなって、説明のために暗黒物質(宇宙の構造を作るには必要な引力源)とか、宇宙の加速膨張を説明するためのダークエネルギーとか、が想定されるようになった。実験を進めるためには更なる加速器が必要らしい。まあ、僕にとっては依然としてどうでも良い事なのだが、こうして辻褄合わせと実証を繰り返すということは、どうしたって人間が本来的に持っている世界認識の枠組みを浮き上がらせることになる、という意味で興味深い。

  <一つ前へ>  <目次へ>  <次へ>