2016.08.19

     薬を貰いに病院に行って、ずいぶん長い時間待ったので、本を一冊読んでしまった。デービッド・アトキンソンの「イギリス人アナリストだからわかった日本の強み弱み」(講談社α新書)。大分前に録画してあった「久米書店」という番組で紹介された本である。ゴールドマンサックスで日本経済の調査報告をしていて、不良債権が深刻な問題であることを指摘して、経済界や官僚達から総スカンされ、右翼に狙われたために日本を2年間ほど離れざるを得なかったそうである。その後アナリストを辞めてから偶然知り合った人に頼まれて、文化財補修を専門とする「小西美術工藝社」を経営することになった。

      日本が戦後復興してGDPが世界2位(1人当たりGDPは世界26位)になったのは、奇跡でも何でもなくて、戦前にはGDP6位だったことからも判るように、近代国家としての基盤(社会制度や教育や、、)が出来ていて、それが一旦戦争で落ち込んだ後の人口の急激な増大(需要と労働力)と固定為替レート(輸出)のお陰で経済規模が自然に膨張した結果に過ぎない。技術だとか、勤勉さだとか、文化的な均一性だとか、、そういった後付けの理屈は有害である。むしろ、その自然な経済の膨張によって培われた経営者層や政治家層や高級官僚層の「思考停止」の習慣こそがこれから大問題となる。だから、人口が減少してGDPの縮小が確実視されている今こそ冷静に日本の強み弱みを把握して、効率的に経済活動を維持しなくてはならない。今まで多くの日本人経営者に接してきて、1つの共通した志向を発見した。それは「面倒なことになる」という発想である。今までうまく行っていた習慣を破ろうとすると困る人達が多く出てきてトラブルになる、ということである。外国人や女性の活用を避けるのも彼らの考え方が標準的な日本男性と異なるために「面倒なことになる」からである。殆どの経営者は極めておおざっぱな感傷的議論(wooly thinking)で済ませているから判断を誤ることが多くなった。掛け声ばかりで本質的な問題には気づかない。勿論、人口が急増する時代には彼等の人間観は戦前から形成されてきた男中心の文化に適合していたので、うまく組織を統合出来たのであるが、環境が変わればそれが欠陥に変わる。合理的な思考のできる経営者は少数であり、著者の知る限りはいずれも理工系出身者である。彼らは職業柄、数値を確かめて論理的に考える習慣がついているからである。

      日本の文化は農耕的か?日本は外国の文化をうまく自己流にアレンジするのが上手いのか?四季を愛でるのか?おもてなし文化か?そうではない。よく比較してみれば、これらは日本だけの特徴ではない。著者が指摘する日本の強みは「古いものを捨てない」という処である。これだけ観光資源を持ちながらも、その整備にあまり熱心でないために、先進国からの観光客が極端に少ない。数字でアジア諸国や先進国と比較してみれば直ぐに気づくが、これからの日本経済の伸び代は「観光」産業である。とまあ、最後は自分の仕事の正当化になったようである。 

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