2022.08.08
      獲得免疫が無い場合の再生産数を R0 と定義して、その値がどれくらいか?を見積もる為に、東京都の昨年からの感染状況を解析した。
最近では、感染データの入手が容易となっている。厚生労働省や東京都のホームページで入手できる。
東京都は新規感染者数推移を発症日で整理して公開しているので、再生産数の計算が容易となっている。
なお、感染確定日でのデータと比較すると、殆どが発症しているので、逆に言えば、未発症者の検査は殆ど行われていないことも判る。
結果はグラフで示した。
(注:2022.08.16)以下ワクチン有効期間を90日と設定してあるが、これは過小評価の可能性がある。いろいろな調査結果が出ているので再検討中である。
 (注:2022.08.19)ワクチン有効期間を 1年間とした解析例がある。当然見通しは甘くなる。
國谷紀良他、https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=4036
 (注:2022.08.20)厚労省専門家会議資料では、最短3ヶ月最長1年という記述がある。SIR(S)モデルでの解析もある。
西浦博、https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000977544.pdf

UK Health Security Agency が毎週データを公表している。ざっくりと150日位ではないかと思われる。
UKHA、https://www.gov.uk/government/publications/covid-19-vaccine-weekly-surveillance-reports
● グラフの説明
・・上のグラフは東京都の新規陽性者数推移である。(常用対数スケールである。)
      ただし、7日間(前3日から後3日)の移動平均をとっている。
・・下のグラフ灰色点は、簡略法による実効再生産数 Rt の推定値である。
      潜伏期間平均値(inc)は、デルタ株、オミクロン株で、それぞれ、5.7日、2.9日
      世代時間平均値(gen) は、それぞれ、4.7日、2.4日 である。
      ここでは簡単の為にそれぞれの分布を無視する。
      別途移動平均された日毎新規発症者数 Sym について、
      日毎被感染者数は Sym(t+inc)、日毎感染させる方の感染者数は Sym(t+inc-gen)となるから、
      t 日における Rt = Sym(t+inc)/Sym(t+inc-gen)と推算される。
      (本来は、それぞれの分布を考慮した計算が必要であるが、粗い時間スケールでは影響はない。)
      なお、デルタ株からオミクロン株へは 1ヶ月程度かけて置き換わっているのであるが、
      ここでは、2021.12.20まではデルタ株で、翌日からオミクロン株と想定している。
      パラメータが突然変わっているため、グラフに飛びが生じているが、大勢に影響はない。
・・濃い茶色は2,3,4回目のワクチン接種数を過去100日目から11日目に亘って積算した数を
      東京都人口で割った値。つまり、ワクチンによる獲得免疫保持者比率である。
      つまり、獲得免疫は接種後 11日後から100日目まで有効と想定している。
・・薄い茶色は新規感染者数を過去100日から8日前に亘って積算した数を東京都人口で割った値。
      つまり、感染者は陽性確定後7日間で治癒して免疫を獲得し、100日後には免疫を失うと想定している。
      これは検査漏れが多いことを考えると過小評価の可能性が高いが、比率的には小さい。
・・青い点は、灰色の Rt を (1-有効獲得免疫比率) で割った値である。
      つまり、獲得免疫が無かったとしたら、実現していたであろう再生産数である。
      有効獲得免疫比率は、濃い茶色と薄い茶色の和であるとしたが、
      濃い茶色については、2021.12.20まではデルタ株としてそのまま、それ以降はオミクロン株として0.5をかけている。
      現状のワクチンはオミクロン株に対する有効性が低いからである。
      薄い茶色については、実際の感染者数や感染者の感受性分布を考慮して 2 をかけている。
 
● 解釈
1.2021年8月の第5波については、デルタ株の日本への上陸によって感染が拡大したのであるが、
      急激なワクチン接種によって、収束したと考えられる。
      それがなければ再生産数(青)は 1を超えていたはずだから感染が更に拡大したと思われる。
2.2022年初頭の第6波は、オミクロン株の上陸と年末年始の人の動きが重なって感染が拡大した。
      ワクチンの効果は減退フェーズに入っていた。
      感染拡大の勢いが落ち着いて高め安定となったのは、少なくともワクチンの効果ではないから、
      感染対策の効果と思われるが、それだけではないだろう(考察中)。
3.3回目のワクチンは第6波には間に合わなかったが、
      4月から5月にかけての人の動きによる感染をかなり抑制できたと考えられる。
      ワクチン接種が遅れていれば、第7波はもっと早く来たであろう。
4.しかし、7月にはすでに 3回目のワクチンの効果が薄れてきていた上に、
      変異オミクロン株 BA-5 が登場して、第7波となっている。
      ただ、これも4回目のワクチンによってある程度抑制されると思われる。
5.現状の感染対策においては、獲得免疫が無い場合の再生産数 R0 は 1.5 から 2 くらいではないかと思われる。

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