2015.02.14

      午後から図書館で予約した本を借りて図書館の隣にある「ひろしま美術館」に行った。毎月第2土曜日はサロンコンサートである。今回はエリザベト音大卒の左手のピアニスト瀬川泰代さんである。局所性ジストニアで右手が使えないが、現在はオーストリアで勉強中である。会場は中央のドーム状の建物で、ドームの周りが常設展になっている。ドームといっても高さはせいぜい10mちょっとで、直径もそれくらいである。そこに今回はピアノを置いてあって、周辺の通路に折りたたみ椅子が並ぶ。15分前には満席となって、立ち見が多数である。どうやら昨夜NHKのニュースで採りあげたらしい。元気の良さそうな人である。昨日帰国したばかり。

      最初はタイスの瞑想曲。馴染みの曲であるが左手で弾くとなるとメロディーラインの隙間に伴奏音が入るからリズム的にはややギクシャクした感じになる。それを逆に利用してやや大げさなタイミングのずれによる表現手段とするのである。なかなか良かった。フルートで吹く時もこれくらいタイミングをずらしてみたらどうだろう?伴奏者が困るだろうが。2つ目はドニゼッティの歌劇から、3曲目はスクリャービンの夜想曲作品9−2でこれは左手用に作曲されたもの。次はショパンの夜想曲21番ハ短調遺作の左手用編曲版。これはなかなか劇的でもあり情緒もあって良かった。次はシューベルトの即興曲3番の左手用編曲版でなかなか雰囲気が出ていた。左手だけだと一音一音を丁寧に設計していかなくてはならず、どうしても弾き手の個性が出る。この人の音はゆったりしていて温かい。次は唱歌の「冬景色」をやって、近藤浩平作曲の海辺の祈り作品121。作曲者が聴きに来ていて挨拶があった。音の数が少なくても結構筋立てがしっかりしている曲である。最後はブルーメンフェルトという作曲家の練習曲作品26で、なかなか技術を要する美しい曲であった。左手が広い鍵盤をなめる様に動き回って速いパッセージを繰り返す。アンコールはタイスの瞑想曲の再演であったが、最初のよりは大分まとまりが良い感じだった。

      会場の壁に熊谷守一の「瓜」と「薔薇」があったので、しばらく眺めてから美術展「日本洋画珠玉のコレクション」の後半(風景画)を見に行った。ひろしま美術館所蔵品の企画展示である。(前半は人物画と静物画だった。)日本の伝統では風景画は象徴的な描かれ方をしていたのだが、西洋では科学的かつ描写的である。西洋画を輸入したとき、絵は正確な3次元描画の技術という風に扱われていた。その後ヨーロッパに留学した画家達は技法を学んだものの、帰国しても風景そのものが西洋と異なるので日本での展開に悩んだのである。といった感じで始まり、歴史的に一人数点位づつの展示が並べられていた。知らなかった画家も結構あってなかなか楽しめたのだが、ひとつ感じたのは、絵というのは現物を見ないと良く判らないということである。絵の具の塗り方や掻き取り方で画家が画面のテクスチャーを作っていて、使い分けている。それが結構重要な場合が多いからである。写真にしてしまうとそれが殆ど消されてしまう。テクスチャーというのはまあ、気分のようなものかもしれないが、画家の気分が伝わらないと見ているほうも見た気分にならないのである。

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