2018.01.11
      先週末から広島市映像文化ライブラリーでタルコフスキー特集をやっている。僕が見たのは何十年も前「惑星ソラリス」だった。今日のもSFのようで「ストーカー」(1979年)という題である。見た感じでは多分「ガイド」という意味だろうと思ったが、ネットで調べると原作の小説(1972年)では「密猟者」という意味らしい。場所はソ連の何処かで、隕石の衝突のような事件があって、付近の町が破壊され、調べに行った軍隊も壊滅して、よく判らないが危険なので、立ち入り禁止になっている場所=「ゾーン」とその近くの町である。時を経るにつれて、そこには財宝があるとか、何かパワースポットのようなもの(部屋)があるとか、という事が言われるようになって、物を盗んで霊験ある物として売る人(密猟者)も出てくる。主人公もその一人だったのだが、彼はその秘密の部屋に希望者を案内するガイドをやることで、不幸な人を救うことに人生の唯一の意味を見出すようになった。映画は彼が2人の客(物理学者と作家)を案内するところから始まり、気まぐれな「ゾーン」の罠をかいくぐりながらその秘密の「部屋」の前まで辿り着くのだが、物理学者はこのような部屋があると悪用されるから爆弾でその部屋を破壊しようとする。ここで3人の哲学的な議論が起こり、結局爆弾は解体され、誰もその部屋には入らずに帰ってくる、という筋書きになっている。部屋に入ると、どうやらその人が心の奥底(無意識)で望んでいることが叶うということになっている。挿話として主人公が話すのだが、弟を「ゾーン」で失った人が弟の命を取り戻す為に部屋に入り、帰った後では大金持ちになって、その事に失望して自殺する、という話が出てくる。

      映画で強調されるのは途中での3人の議論であって、人間にはどうすることも出来ず、理解もできない現象の中で、どう生きるべきか、という問いが発せられる。なかなか深遠な議論だとは思ったが、概念が錯綜していて掴みきれなかった。この点「惑星ソラリス」と同じである。しかし、小説の方はSFらしく、この「ゾーン」は宇宙人の気紛れで作られた領域であって、人間達がそれに翻弄されているだけだ、というのが主題のようである。

      「ゾーン」のモデルであるが、これは明らかにソ連のチェリャビンスク州(現在の地名オジョルスク)におけるプルトニューム製造設備の事故(1957年)の現場ではないか、と思う。実際、その経緯は秘密とされ、厳重に囲われて、付近の町の人達は外に出ることを禁じられ、旅行の時にも監視が付いていたという。「ゾーン」に近づいた人の子供は奇形になる、というのもそれを暗示するし、映画でも、待ち合わせのバーから外に出ると湖の側に原子力発電所が見える。また映画の最後の画面では奇形で歩けない主人公の子供が、地震(核実験?)の揺れでテーブルの上のカップが落ちるのを眺めている。と思ったのだが、正式には2008年のツングースカ大爆発のミステリーにヒントを得たものということになっている。これは、今の処、小惑星が衝突直前に爆発したという説が有力である。


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