2020.07.22

新型コロナウィルス(covid-19)感染症に対する遅延隔離SIQRモデル(槇)
 *) その後、ここでの計算は治癒率 γ =0 の場合であることが判ったが、結論は変わらない。一般の場合は論文投稿した 。日本語解説pdf1,pdf2 もある。

・・・遅延隔離SIQRモデルは、古くからの SIRモデルとそこから感染者の隔離を陽に考慮して拡張した SIQR モデルの更なる拡張で、パラメータとして、感染率 α (一人の感染者が一日に何人感染させるか)、治癒率 γ(これは 1/自然治癒or死亡までの日にち≒0.03 位らしい)、隔離率 q(検査可能対象の未隔離感染者全体からどれ位の割合で陽性者を見出して隔離するか)、遅延日数 τ(感染者が検査可能になるまでの日数)である。

・・・未隔離感染者数を I(t) とする。t は日にちである。日々発見されて隔離される人数を ΔQ(t) とする。I(t) は感染によって日々 α×I(t) だけ増加し、γ×I(t) だけ減少するほか、ΔQ(t) だけ減少する。ΔQ(t) はその日に残っている I(t) の内で感染から τ 日以上経過した感染者×q である。したがって、多少の補正を必要とするのだが、ほぼ I(t−τ) (τ日前の未隔離感染者数)を反映する。わざわざ τ を導入するのは、現実問題として、未発症者も感染に寄与し、発症後に検査される割合が多いからである。つまり τ は潜伏期間に相当するが、未発症者を検査すれば、実質的には小さくできる。

・・・パラメータが固定されていれば、定常解として指数関数が得られる。qI(t−τ)∝ΔQ(t)∝exp(λt) である。λ が正であれば感染拡大中、負であれば感染終息中である。さて、モデルの確認の為に、τ=14 日として、東京都の ΔQ(t) を再現してみたのだが、パラメータの自由度がかなり大きい。α−γ の自由度はあまりないのだが、とりわけ、隔離率 q を一意的に決めることが困難であることが判った。ただ制約はある。q はあまり小さくすると α が負になってしまうので、下限があるし、1 を超えるのも、日々の検査という事情からあり得ないだろう。おそらく隔離率と相関するのは検査の陽性率だろう。陽性率が高いというのは検査体制が切迫してきて発症者を選別した結果と考えられるからである。示したのは一例に過ぎず、陽性率の振る舞いを考慮して、多少隔離率 q に変動を与えてみたものである。遅延を考慮しない SIQR モデルでは q の設定によって計算で推定される I(t) が 1/q で変わるが、遅延を考慮すると、それほどは q 依存性がないので、ここで計算された未隔離感染者数は現実的な数値だろうと思う。最後の時点で約8,000人である。

・・・その上で、感染拡大を終息させるために、どのパラメータを変えるのが有効であるか、という探索に移った。定常解(指数関数)において成り立つ、感染拡大指数の係数 λ と、感染率−治癒率  α−γ、隔離率 q、遅延時間 τ の間の関係式を使って、それらを変えた時の λ の振る舞いを計算し、更に、統一的に表現するために、λ=0 における α−γ、q、τ を図にした。つまり、τ をパラメータとして、α−γ、q の関係( τ=1/(α−γ)−1/q となる)をグラフにする。そうすると、そこを境目にして感染が終息するかどうかが、決まる。これはこのモデルの結論をうまく要約する図だろうと思う。図中に、感染拡大中(赤丸、τ=14)からそれぞれのパラメータを変えて、感染を終息させる方策を青い矢印で示した。ある程度、α−γ を下げるか、τ を下げないと、隔離 q の効果が発揮されないことが判る。現状では α−γ は 0.1 程度なので、短期的には α を半分くらいに下げる(接触率を半減)必要がある。長期的には未発症者の検査・隔離を行って(接触アプリの活用や疑わしい集団の検査等)、 q を上げるだけでなく、同時に τ を下げる事が有効だろう。


 
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