2016.10.17

「Hiroshima Happy New Ear 22」 はマリアンナ・シリニャンというピアニストのリサイタルであった。アルメニア出身という事である。中島みゆきの歌に出てきたアゼルバイジャンの西隣。カスピ海と黒海の間で、トルコとロシアに挟まれている。歴史的にはペルシャ、トルコ、ロシアの支配の他、隣国アゼルバイジャンとの紛争など、非常に複雑であるが、基本的にはアルメニア教会の元で独特の文化を育んできた。

・アフタートークで経歴が紹介されたのだが、父と兄はフィドラーで、幼い頃から、ジプシー風、ハンガリー風、アルメニア風の4ビート音楽に親しんでいた。彼女の子供時代はソ連領で、(民族音楽が公的に禁止されていたものの)比較的生活は豊かであったが、1991年にソ連が崩壊して独立した後は相当苦労したようである。12歳の時にドイツからやってきた人に拾われてドイツに移って室内楽の勉強をして、その後16歳の時にソロ・ピアニストを目指すようになり、2006年のミュンヘン国際音楽コンクールで2位となった。現在はデンマーク人と結婚してデンマークに住んでいる。細川俊夫の目に留まったのは最近である。今回が初来日で、16日に広島に着いたばかりである。既に原爆資料館を見学、お好み焼きも食べたらしい。

・・・民族衣装だろうか?ソバージュ髪で、大胆な幾何学的模様の大きな風呂敷包みの真ん中に穴を開けて首を出したようなワンピースを風にたなびかせて元気一杯である。

・前半はプゾーニ編曲のバッハのシャコンヌで始まった。野性的でダイナミックな演奏であった。この力強さは若い頃のマルタ・アルゲリッチみたい。それと、右手と左手の独立性が高くて、微妙に打鍵のタイミングがずらされていて、曲の構造を浮き彫りにしている。

・次は細川俊夫の<エチュード I 2つの線><エチュード II 点と線>では、随分と繊細な表情や音色を使っていた。線的な構造でありながら、この曲の本質は和声にある、という事をアフタートークで語っていた。それにしても、ピアノにも持続音があるんだ、ということを知ったような気がするくらい、ながーい持続音が多用されていた。

・次はベルクの「ピアノ・ソナタ」。多分12音技法なのであろうが、そんな感じはしない。ごく自然に表情が付けられ、意味が与えられている。自家薬籠中という感じの自在な演奏。

・前半最後がアルメニア人作曲家 T.マンスリアンの「低音鍵盤のための3つの小品」より I、II。民族音楽的で豊かなリズムと響きに満ちている。

・・・後半はショパンである。ワンピースの模様だけが変わって赤くなった。

・・「バラード3番、4番」。僕は大学生の頃、ルービンシュタインのLPを買って、近くに住んでいた兄の家のステレオでよく聞いていたが、この人もルービンシュタインの演奏でショパンが好きになったそうである。演奏はそれを彷彿とさせるダイナミックなものであった。多分に即興的な要素が入っているように感じた。

・次は「子守歌 Op.57」で、これはまた繊細な演奏でちょっと感動的。

・最後は「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ Op.22」。僕はあまり好きではない曲なのだが、初めて素晴らしい曲だと思った。実に音が冴えている。水しぶきが散っているような感じである。

・アンコールはショパンの、多分マズルカだろうが、はっきりとは判らない。これまたしっとりとした、何か遠い故郷を思い起こしているような感じ。

・・・アフタートークの中でも元気の良いアルメニアの踊りの音楽を弾いてくれた。タタターターターという4拍子で最後の拍子に強いアクセントが来る。更に最後にはサービスでピアソラの「リベルタンゴ」を弾いて帰っていった。

今週は名古屋と東京でリサイタルの後、金曜日(21日)にはまた広島に帰って、広響とラフマニノフの2番を演奏する。細川俊夫は今度は宮島を案内するそうである。 

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