2021.04.08
PCR検査の効果的なやり方として、クラスター発生確率の高そうな集団(医療機関や介護施設)における定期的検査がある。どの程度の効果があるのだろうか?文献を調べれば良いのだが、面倒なので、計算してみた。一人の感染者が出たとして、その人に対して定期的に検査したとき、二次感染をどれくらいに抑え込めるか、という推定になる。当然ながら感染あるいは発症などの基準日から検査日までのタイミングに依存するので、考え得るタイミングについて計算してその平均効果を求めればよい。

・・・感染が発生した日を起点にして、PCR検査の時刻を t1,t2,t3,,,, とする。陽性が判明すれば、隔離するとする。陽性となる確率を p(t) とする。p(t) は発症日の数日前から2週間後位まで正となり、それ以外では 0 である。具体的には、下図、Mallette 等のメタアナリシスによる推定を使う。但し、発症日より前については、データが無いので、感染力分布と同じであるとした。また、感染力分布の積算値 を F(t) とする。F(t) は単調増加関数で、発症日の数日前から正となり、数日後には 1 に収束する。具体的な感染力分布については Ferretti 等のメタアナリシスによる推定を使う(感染力分布は積分が 1 となるように規格化されている。)なお、Ferretti 等は感染力分布を TOST分布 と名付けている。(これは実際の感染者対データから得られているので、検査・隔離の効果が多少入っていて、発症後の感染可能期間はやや短めに評価されていると考えられる。)

これを積算して、その日に隔離したときに前日までに二次感染を起こした確率(F(t):下図)は 0.5日前までの感染力分布積算値× 本来の再生産数となる。これは Ferretti 自身の考えなのでそれに従う。

・・・感染者が陽性者として時刻 t1、t2、t3、、、、 に隔離される確率は、p(t1)、(1-p(t1))p(t2)、(1-p(t1))(1-p(t2))p(t3)、、、、 となる。

・・・しかし、もしも検査日が発症日以後であれば、一度検査されて陰性であった感染者が再度検査されて陽性になる場合は非常に少ないと考えられるので、その時点で全ての二次感染可能性が無くなる。つまり、感染者隔離の確率としては、それまでの確率総和の残余とすべきである。

・・・従って、検査無しの場合で規格化された再生産数の期待値は 、通例検査結果が判明して陽性者が隔離されるのは翌日であるから、

・・・E(R)=p(t1)F(t1+1)+(1-p(t1))p(t2)F(t2+1)+(1-p(t1))(1-p(t2))p(t3)F(t3+1)+.....

としておいて、最後の、つまり発症日以後となる最初の t に対してそれまでの確率和の残余確率とすれば良い。例えば、それが t3 であれば、

・・・E(R)=p(t1)F(t1+1)+(1-p(t1))p(t2)F(t2+1)+(1-p(t1))(1-p(t2))F(t3+1)
とする。
これが 1 に比べてどれ位小さくなるか、という事が定期検査の(再生産数低減=二次感染抑制への)効果である。
t が数週間を超えると p(t) が 0 になるので、それ以上足し合わせても意味が無い。定期的に検査する場合、例えば 3日に 1回であれば、そのタイミングが 3 通りあるから、それぞれ計算して、平均を取ることになる。検査間隔が長くなれば、その場合の数が多くなるが、大部分の検査が空振り(p(t)= 0) となるので、それを考慮して計算すればよい。つまり、場合の数は p(t) が正となる日数に限られる。計算は単純な足し算である。下記が結果である。

大雑把に言えば、相対二次感染リスクの周期依存性は感染力分布の拡がりに関係しているだろう。どの程度の検査周期にするかは、その施設での再生産数に依存する。例えば、再生産数が2であれば、相対リスクを0.5以下にすればよいので4日周期ということになる。

● 結局感染者のPCR検査陽性確率は発症日以降は寄与していない。発症日以前の陽性確率が効いている。しかし、その部分は Mallett の推定ではなく、私の推定でである。発症前の陽性確率を大きめに採れば検査効果は大きく計算される。そういう意味で、この結果は、大雑把には合っているだろうが、まだ検討すべき余地が大いに残る。こういう検討は多くなされていると思われるので、調査すべきであろう。

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