2024.10.31

●『量子コンピュータが本当にわかる!』 武田俊太郎(技術評論社)

最近話題なので、どんなものかなあ、と思って読んでみた。概要を知るにはなかなか良い。ただ、判った感じはしない。数式無しではやはり無理だろう。以下メモ。

・・いろいろな物理現象に仮託して計算機が作られてきた。量子コンピュータもその流れの中にある。

    ソロバン(玉:桁上げは手動)→機械式計算機(桁上げが自動)→現代のコンピュータ(トランジスタ)・・小型化(ムーアの法則)の限界(原子サイズ)→量子力学(重ね合わせの原理)。

    1985年、デヴィッド・ドイッチェが量子力学原理を計算に使う方法を考案した。
    1994年、ピーター・ショアが量子コンピュータでの素因数分解の高速解法を発見。

    2014年、Google が量子コンピュータの開発を開始。

量子コンピュータの特徴

    特有の計算アルゴリズムが使える。期待される用途、暗号化学計算最適化問題
    どんな問題でも速くなるわけではない。しかし、これだけでも社会的インパクトがある。

・・ 量子コンピュータの計算方法のイメージ

4重スリット問題。どれか正解のスリットでは位相がちょっと遅れるとして、どのスリットで位相が遅れるかを調べる。既存のコンピュータでは一つ一つスリットを順番に調べていくのだが、量子コンピュータでは一度に電子を当てて、その干渉電子波にあらかじめ調整された波を干渉させて、どこのスリットで位相が遅れたかを判別するので、一度の操作で答えが出せる。

    既存のコンピュータはビット単位でその演算を行う。Not、Or、AND、XOR、。ビットはいつも 0 か 1 かに確定している。量子コンピュータのビットは重ね合わせ状態であり、0 か 1 かは確率的にしか定まらず、しかも位相因子が含まれる。
    量子コンピュータの基本演算では、その量子ビットに対して直接的な演算を行うから、0 あるいは 1 の可能性を保ったまま、演算が行われて、対応する量子ビットに変換される。つまり、並列計算とも見なせる。
    しかし、結果を知ろうとすると、その量子ビットは定められた確率で、いずれかのビットとして検出されてしまうので、計算プロセスの工夫が必要となる。

    量子コンピュータの演算は重ねあわされた状態の中で正解の成分だけ位相をずらすということらしい。そういうプログラムが作れるということだろう。その状態から正解を取り出すためには、全体を位相反転させて元の波と干渉させればよいのだが、どうやらそれほど簡単ではないらしく、もう一度演算を通してから重ね合わせるらしい。ビット数の平方根程度これを繰り返すと、正解の状態だけが残される。これはグローバーの解法と呼ばれている。

    量子コンピュータの有力な応用分野が化合物の物性予測である。多数の電子軌道のどこに電子が入るか、という組み合わせは非常に多くて、その中で一番エネルギーの低い状態を求める為には、既存のコンピュータでは一つ一つ計算しなくてはならないが、量子コンピュータでは並列的に計算ができる。

    この他、素因数分解のアルゴリズムをショアーが発明した。これは数字の列の中の繰り返し周期を探るのが速くできるということらしい。連立方程式も速く計算できる。

    要するに、波として計算するということである、というのだが、具体的にどうするのか?この説明だと判らないままである。

    量子コンピュータにおいては、ビットがディジタル化されないままで計算が進むので、途中で誤差が入ると切り捨てられずに伝搬してしまう。エラー訂正については、余分な量子ビットを追加しておいて、ビット間相関の乱れを検出して乱れたかどうかを別の量子ビットに移すことで、訂正動作を行う、という。(これだけでは具体的にどうしているのかは判らない。)エラーが起きたとは言っても、それを訂正することで逆効果になる場合もある。つまり、量子ビットが増えるにつれて、訂正も難しくなるので、エラー率そのものを極限まで下げる必要がある。これが難しい処。

・・ 量子ビットの具現化方式

1.超伝導状態の回路の2通りの状態(Google、IBM等、現在主流)
    1999年 NECの中村康信と蔡兆申が発明
    極低温に回路を保持。マクロな量子状態なので、普通の電気信号で操作できる。
    実用化されている。インターネット経由で自由に使ってみることができる。

2.イオン1個中での電子の軌道への2通りの入り方
    イオンは真空中に電場で浮かせる。レーザー光線で操作する。
    安定なので有望。多数のイオンを閉じ込められないので、多量子化に課題がある。

3.半導体基板中に閉じ込めた電子1個のスピン状態(Intel)

4.光子1個の電場振動の方向
    常温で構わない。振動等の絶縁が必要。多数の鏡。
    著者の師、古澤明氏は1998年に光を使って量子テレポーテイションを実現した。
   
著者は光方式で XOR を実現するために量子テレポーテイションを使った。
    装置を安定化するために、光の波動性を使った。
    回路を単純化するためにループ型とした。
    2019年に基本的な回路を完成した。

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